今月のひとこと 2026年8月号

今月のひとこと 2026年9月1日号

ハサビスの「昇格」が意味するもの

最近のハイテク分野の話題では、AlphaGo やAI関連の業績でノーベル賞を受けたデミス・ハサビスが、GoogleのDeepMind CEOの座を離れ、会長兼CTOのような地位に移ったことが話題になりました。ただしこの人事は、ハサビスがGoogleを離れるという意味ではありません。むしろGoogleが彼を「AI製品部門の経営者」から「Alphabet全体のAI・科学研究の方向を決める人物」へ移した、と見るほうが適切でしょう。日々の製品ロードマップや売上責任から解放して、もっと遠くを見る役に就けたということです。ハサビス自身は、AGIが科学、医学、生産性を根本的に変える可能性があると繰り返し主張しており、2026年にはAlphaGo誕生十周年を振り返りながら、AlphaGoからAlphaFold、さらにAGIへと続く研究路線をあらためて強調しています。囲碁の盤上から始まったものが、タンパク質の立体構造を経て、人類の知性そのものに手を伸ばそうとしている。十年でここまで来たのかというのが率直な感想です。

株価は凪、予算は140兆、金利は3%——袋小路の入口

株価もあまり変動しなくなりました。来年度予算の概算要求は百四十兆という、もはや現実感を失った巨大な数字になり、そのせいもあってか政策金利はとうとう3%に乗ってしまいました。ここで財政出動をするのが良いのか悪いのか、悩ましいところではあります。景気の下支えは要る、しかし利払い費は雪だるま式に膨らむ。アクセルとブレーキを同時に踏んでいるような格好です。ただ一つ確かなのは、日本がそろそろ袋小路に入りつつあるということです。財政であろうが金融であろうが、積極的に打って出る余地がだんだん狭まってきている。かつては「金利がゼロだから借りても平気」という理屈が通用しましたが、その前提そのものが崩れた以上、これまでの議論はすべて土台から組み直さなければなりません。

一ドル八十円は夢物語——価値が半分になった国で

日米協調介入にもかかわらず、円安は進行しています。せめて140円ぐらいにはなってほしい、できるなら120円ぐらいが適切ではないかと常々思っています。ずっとはるか大昔、一ドルが80円ぐらいになった時期がありましたが、あれはもう夢物語ですね。あの頃と比べると、対ドルでちょうど半分、つまり日本円の価値が半分になったということになります。あの時はアメリカに行くと何を買っても安く感じました。特に日本から輸出したものが、向こうで買うと非常に安く手に入る。作った国より買った国のほうが安いという、非常に複雑な気持ちになったのを覚えています。ビデオレコーダーを買って、どんな作り方をしているのかと中を開けてみたら、門真製でした。今は昔。その役割は今、中国が担っています。中国のものは何でも安い。そしてかつての日本がそうであったように、安いだけでは終わらないのが厄介なところです。

ラズパイ三万円の衝撃と、数百円のESP32

しばらくソフトウェアの世界から遠ざかっていたが、必要に駆られてまた手を出してみたら、驚愕の事実がいろいろ分かってきました。一つは、ラズベリーパイ、いわゆるラズパイが、なんと二万円も三万円もするようになっていたことです。もともと数千円で買えたものが、階級が一つ上がったような感じです。IOを制御するのでなければ、中古のミニPCが一万五千円ぐらいで手に入りますから、そちらのほうがよほど使い勝手があります。ではIO制御はどうするのかというと、これがまた驚いたことに、ESP32というものがすでに標準になっていて、AliExpressなどで大量に売られている。それも何百円のレベルで、です。これでちょっとした制御はすべてできます。Wi-FiもBluetoothも載っているので通信にも困りません。有線LANがないのがラズパイとの違いです。さらに驚いたのは、もう一回り小さいC3というタイプがあることで、ピン数が少ないので制御できる範囲は狭いものの、これが数百円。もちろんWi-Fi付きです。ただしあまりに小さいのでアンテナも小さく、Wi-Fiの到達距離が極端に短いのが致命的でした。ところが調べていくと、アンテナ——導線を丸めて半田付けするだけ——を自作すると良いという。半信半疑でやってみたら、これがものすごく効いた。通常のESP32と変わらないレベルで届きます。さらに外部アンテナ付きのものもあり、これなら全く安心して使えると思います。

血圧計の部品で水位を測る

これを使っていろいろやろうと思ったのですが、そのうちの一つが水位計です。五十センチほどのタンクの水位を測ろうというもの。どうやって測るかというと、タンクの中にパイプを垂らしておいて、そこに空気を送り込み、押し出しきったときの圧力を測る。水位が深いほど圧力が高い、それだけの原理です。実はこれ、私が以前に商品化しようとして途中で止めたものと全く同じ仕組みで、その時に使い残した空気ポンプが数個出てきたので、これを使えばよいと思いました。この空気ポンプはもともと血圧計に使われているものです。我々が生活する範囲の圧力に関しては、血圧計のパーツというのは非常に相性が良い。量産されているので安く、精度も十分で、いろいろ使えます。圧力センサーも以前は血圧計から取っていましたが、今はモジュールとして売られていて、これがなんと二百円以下。これにもびっくりしました。あとはモーターの駆動ですが、ESP32から直接オンオフするのはやはり無理があるので、MOSFETのスイッチを間に挟んでモーターを回します。部品代を全部足しても千円に届きません。かつて商品化を考えたものが、今や小遣いの範囲で作れてしまう。技術の民主化というのは、こういう身も蓋もない形でやって来るものらしいです。

ソフトが苦手な人間の逆襲——AIと過ごした一年

さらに驚くのは、これを動かすソフトウェアです。本欄で何度も触れたとおり、私はソフトウェアが非常に苦手で、システムのコンセプトは作れてもコーディングが全くだめ。だからラズパイなどは最初から諦めていました。ところが今はAIという異様に強力な味方が現れ、お願いすればみんなやってくれる。最後のESP32-C3という小型版モジュールにしても、「動かしてくれ」と言うだけで全部セットアップしてくれて、こちらが何も覚えないうちに動き出す始末です。

AIを曲がりなりにも使い始めて約一年経ちましたが、その間の進歩は凄まじいものがありました。一番最初はExcelのマクロを作ってくれと頼んだら一発で動いて、これに驚いた。当時はまだチャット形式のものしかなかったので、チャットで頼んで返事をコピペする、という往復を半年ほど続けました。これが結構面倒なのですが、それでも動くものが作れたのは驚きでした。

去年の暮れあたりからエージェント方式のものが進化してきて、自分のPCの上で動くアプリを通じてAIに作業させられるようになった。これが非常に大きな進歩でした。つながっているものであれば、こちらが何もしなくてもセットアップまで済ませてくれます。インターネットのサイトにアップロードするような作業は自分でコピペしてやっていますが、これも頼めば代行してくれる。ただ、ものすごく時間がかかるので私は自分でやることにしています。面白いのは、初期の頃のAIは自分で作業するのを露骨に嫌がったことです。なぜ嫌がるのかよく分からなかったのですが、後で考えれば、要するに時間とお金——トークンが要るということだったらしい。

自分のデスクトップPCの操作もできることはできますが、これも下手をすると数時間かかる作業がざらにあります。よほどのことがない限り自分でやったほうが早い。ただし、同じ操作を何十回、何百回と繰り返さなければならない類のものは、一日かけるつもりで任せてしまうのが正解だと分かりました。人間が向いている仕事と機械が向いている仕事の線引きが、この一年で完全に引き直された感覚があります。

作ったもの三題——施肥システム、音声日記、そして会計ソフト

それで今まで何を作ってきたか。いろいろ作りましたが、一番大きなものは畑の作物の液肥自動潅水システムです。畑で作る作物の元肥の提案——耕作は自分でやらないといけないのですが——それに従って元肥を入れ、その後は推奨の液肥やりを潅水と同時に行うシステムです。いろいろ背景があってタンクを三つ用意することになり、その配合まで自動で計算。これで最初の元肥の提案から最終的な液肥の潅水まで、一気通貫でできるシステムができました。ただしこのシステムは、正解があまりよく分からない。

何が良くて何が悪かったのか、その場では結果が出ません。 答え合わせが半年後にしか来ない世界というのは、ソフトウェアにとってはかなり意地の悪い環境です。逆に、あっという間にできて一番簡単だったのが日記のシステムです。日記を手書きやキーボードで入れるのは面倒なので音声で入れたい。ところが今の音声認識は間違いが非常に多い。特に日本語は同音異義語が多いのですぐ取り違えます。これをAIでもう少しマシにできないか、目的は日記と限定しているので、その辺の文脈を教えてやればいけるのではないか、とバイブコーディングでやってみたら、あっという間にできました。

とりあえず音声で入れておいて、それを校正し、最後に人間が少し手直しして、メールで送る。私は日記をすべてメールで送ることにしているので、そこまで含めて完成しました。おかげで日記を書く時間が一気に減りました。

あとは某有名会計ソフトメーカーの製品のサブセットを作りました。会計ソフトというのは原理が極めて単純なので、これぐらいはできるだろうと思ってやったのと、使っている会計ソフトに不満が大いにあって、その不満を解消するためでもあります。ちょっと気に入らなければ自分で全部直せるというのは非常に良い点です。基本が複式簿記ですから、途中で何か間違いがあっても最終的には必ず露見する。その意味では思ったより使えます。あとはこれをスタンドアロンのアプリにして配布できないかと思っています。

今月の読みものは本文も長くなったので休刊です。




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