今月のひとこと 2026年10月1日号
停滞する日本と、気を吐く中国
最近は株価もさえず、円安もなかなか止まりません。物価はどんどん上がり、長期金利も上昇して、日本はますます袋小路に追い込まれていくような気がしています。
政治に目を向けると、先日の内閣改造はあまり派手さがありませんでしたが、細野議員を起用するなど、一定の若返りを図ったようです。その後の世論調査でも、高市内閣の支持率は少し上がりました。経済はパッとせず、アメリカとの関係もいまひとつで、中国とは相変わらずの関係が続いています。あまり良いところはないのですが、かといって自民党の古い体質に戻るのは嫌だというのが、世論一般の見方なのでしょう。
そんな中で気を吐いたのは、やはり中国です。先日開かれたロボット版オリンピックでも、出場したロボットのほとんどが中国製でした。日本からの参加はわずか1チームだけで、それもハードウェアは中国製だったそうです。
2,056台が集まった「ロボット版オリンピック」
2026年8月22日から26日までの5日間、北京の国家スピードスケート館、通称「アイスリボン」で「第2回世界人形ロボット運動会(World Humanoid Robot Games)」が開かれました。名前だけ聞くと、ロボットを並べて見せる展示会を想像するかもしれません。でも中身はまったく違います。人型ロボットに実際に競技をさせて、走る、跳ぶ、蹴る、戦う、物を扱うといった力を真剣に比べ合う、いわば「ロボット版オリンピック」です。
まず驚くのは規模の大きさです。16か国から666チームが参加し、登録されたロボットは2,056台にもなりました。競技と実演を合わせて51種目が用意され、試合の数は延べ1,301回に達しています。陸上、サッカー、卓球、格闘技、体操、さらにダンスまであり、人間のスポーツ大会と比べても見劣りしません。前年の第1回大会から、たった1年でここまで大きくなったことになります。
先にも触れたとおり、参加チームのほとんどは中国勢でした。中国はいま人型ロボットをつくる企業がとても多い国で、会場でもUnitreeをはじめとする中国メーカーのロボットが目立っていました。大学のチームもたくさん出場しています。企業にとっては自社の技術を広く見せる絶好の舞台ですが、それだけではありません。モーターや減速機、センサー、バッテリーが激しい動きの中で本当に耐えられるのかを試し、故障や転倒のデータを大量に集められる場でもあります。華やかなスポーツ大会が、そのままロボット開発の巨大な実験場になっているわけです。海外メディアがこの大会を、中国のロボット産業の勢いを示すイベントとして報じたのもうなずけます。
もうひとつ見逃せないのは、51種目のうち21種目がスポーツではなく「実用シナリオ競技」だったことです。家庭での家事、工場での作業、ホテルの接客、災害時の救助、さらにはEVの充電まで、かなり具体的な仕事が課題になっていました。速く走れるかどうかだけでなく、人間の仕事を代わりに担ったり手伝ったりできるかまで試している。この点こそが、この大会を単なるショーではなく、技術を見極める場にしているのだと思います。
100m9秒39、高跳び2m88という衝撃
大会でいちばん話題になったのは、初日に行われた100m走でした。中国の「天工Ultra(Tiangong Ultra)」が9秒39で走り切ったのです。人間の世界記録は、ウサイン・ボルトが2009年に出した9秒58ですから、数字の上ではロボットが人類最速を上回ったことになります。前年の大会では約21.5秒だったので、わずか1年でタイムを半分以下に縮めたわけです。もちろん、ロボットと人間では体のつくりも競技の条件も違うので、「人間より速いロボットが生まれた」と単純に言い切ることはできません。それでも二本の脚で走るロボットが9秒台を出したことは大きなニュースで、AP通信など海外メディアもこぞって取り上げました。
跳躍の伸びはさらに劇的です。走り高跳びの優勝記録は、前回の95.641cmから今回は2.8843mへ、一気に約3倍になりました。走り幅跳びでも、前年の最高1.25mから7mを超える記録が出ています。測り方や機体の構造は人間の陸上競技と違うものの、ロボットが「歩く」段階を抜けて「爆発的に跳ぶ」段階に入ったことは、この数字を見ればよく分かります。
球技や格闘技にも見どころがありました。ロボットサッカーは前回の3対3から5対5になり、ずいぶんサッカーらしくなってきました。ボールを見つけて走り、敵と味方の位置を見ながらドリブルし、シュートを打ち、キーパーが飛び込んで止める。体を動かす力だけでなく、目で見て判断し、仲間と連携する力まで問われる競技です。キックボクシングでは80kg級などの階級に分かれ、ロボット同士が本気でパンチやキックを打ち合いました。相手との間合いを測りながら片脚で立って蹴りを放つ姿は、それだけで高い技術を感じさせます。
意外なほど見ごたえがあったのが卓球です。卓球は腕を振るだけのスポーツではありません。飛んでくるボールの位置と速さを一瞬で見極め、相手の打球の向きを読み、腕と手首と胴体を連動させて打ち返す。しかもそれを二本の脚で立ったままこなす必要があります。AGIBOTなどのロボットが実際にラリーを続け、その構えは人間の選手とよく似ていました。人間のために作られた道具を人型ロボットが使いこなすという意味で、とても象徴的な競技だったと思います。
転んで、熱を出して、それでも前に進む
ただ、この大会が世界中の注目を集めたのは、華々しい記録のためだけではありませんでした。失敗する姿もまた、大きな話題になったのです。ハードルに足を引っかけて転ぶロボット、階段や坂でバランスを崩すロボット、パンチを受けて倒れるロボット、ボールを追いかけて転がるロボット。倒れて動けなくなり、担架で運び出される場面までありました。キックボクシングでは、試合の途中でオーバーヒートを起こす機体も出ています。笑ってしまうような映像も多いのですが、裏を返せば、二本の脚で立って動くことがそれだけ難しいということです。速く動けるようになるほど、転んだときの衝撃も大きくなります。いまのロボットは、人間のように長時間激しく動き続けられるところまでは来ていません。
それでも、この大会を珍しい見世物とだけ受け取ると、いちばん大事なところを見落としてしまいます。ロボットが社会で働くために必要なのは、AIの賢さだけではありません。周りを見る力、考える力、歩く力、手を器用に使う力、そして転んでも自分で起き上がる力が求められます。工場では物を運び、家庭ではドアを開け、お店ではお客さんに応対する。人間に合わせて作られた世界で働くなら、人間と同じ形の体が有利になる場面は少なくありません。今回の大会は、そうした体の能力を「競技」という誰にでも分かる形で比べてみせたのです。
転倒、発熱、バッテリーの持ち、自分で判断して動ける度合いなど、課題はまだたくさん残っています。人型ロボットが人間の代わりに働ける時代がもう来た、とは言えません。けれども、その時代に向けて驚くほどの速さで近づいていることは、はっきりと示されました。そして2,056台ものロボットが一つの会場で競い合ったという規模そのものが、今回の大会のいちばんのインパクトだったのかもしれません。
フィジカルAIは人間の代わりになれるか──器用さとエネルギーという高い壁
一方の日本では、フィジカルAIで勝つのだという話もあります。各会社の各装置にマイナンバーと同じような番号を割り当てて、それで加工データを収集するということらしいのですが、これで本当にフィジカルAIができるのかどうか、疑問に思っています。
今回のロボット大会を見ても、飛んだり跳ねたりはできるようになりました。しかし、それで果たして人間の代わりができるのかというと、はなはだ心もとないです。人間というのは、極めて器用にできています。五本の指を使い、器用な人はものすごく器用なことをやってのけます。例えば音楽家は、ものすごい勢いで楽器を弾きこなします。このようなことがロボットで実現できるとは、到底想像できません。
今、AGI(汎用人工知能)とかASI(人工超知能)とか言われていますが、それはもう実現したという声も、ちらほら聞こえてきています。シンギュラリティという言葉もありますが、それもすでに現実になりつつあるのではないかという意見も出てきています。最近のAIの進歩を見ていると、本当に人間を超えていると思える場面が多いです。しかし、このAIとロボットを組み合わせるのは、なかなか難しいのではないかという気がします。
また、電力の面でも大きな違いがあります。人間のエネルギー消費はせいぜい100W程度です。ところが、人間の脳の10分の1ぐらいの能力しかないデータセンターでも、1ギガワットといった、桁が何桁も違うエネルギーを必要とします。このエネルギーの問題と指の器用さという点では、乗り越えるべき壁はまだまだ高く、道のりは遠いと感じます。
いろいろな動物を見ていても、一番器用なのは人間です。人間に一番近いサルでも、そんなに器用ではありません。やはり器用さは、人間の大脳に依存しているのでしょう。大脳が先か器用さが先かという議論もありますが、器用さが必要だったから大脳が発達した、という話になっています。
いずれにしても、AIは第一ステージが完成しつつあります。次の第二ステージ、さらに第三ステージで、やっと人間の代わりになるロボットが誕生するのではないかという気がしています。


































