今月の一言2011年4月号

「今月のひとこと」の目次
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2011年4月3日
いやー、それにしても、それこそ想定外の大惨事です。 地震の起こったときには、たまたま名古屋に居て、船酔いするような揺れに気が付いて、それが何時までも続くので、これは大きな地震が遠くで起こったと直感しました。 真っ先に考えたのは、南海地震。 これが起きると自宅は倒壊の恐れがあるので、しかし名古屋に居たので、下敷きにはならなくて助かったはずでした。 ワンセグも見れず、ネットではまだ情報が流れておらず、まさか東北で起こったとは夢にも思いませんでした。 その後しばらくしてからも小さく揺れたのですが、後で考えると、これは長野の地震みたいです。

一時は東海地震が今にも起きると言うように報道されましたが、実際はほとんど忘れている状況でしょう。 この間のTVでもは、エネルギーが抜けて、しばらくは起こらないとのこと。 その反面、M9.0 の大地震の予兆さえなかった、地震学はやはり信頼がおけませんので、最近は地震があまりない近畿地方でも身構えが必要でしょう。 地震や津波はいくら大きくても、復興すれば良いのですが、原発はそうは行きません。 定常的な冷却ができるようになるまで、まだまだ最低数カ月はかかるのでは無いでしょうか。 現場の作業員の数が心配になります。 疲労もあり、累積被爆もありで、交代要員が必要になります。 素人では出来ないので、それなりの人が必要となります。

海水注入時から、廃炉と決まっていましたので、その作業に入らないといけないのですが、それが可能になるには、最低でも3-5年はかかります。 そこから処理が始まって、10-20年かかりで廃炉が終わると言うことです。 ちなみにチェルノブイリでは、未だに完全な廃炉に至っていないようです。 それにしても、1000年来の地震と言っても、お粗末としか言いようのない原発事故です。

保安上の理由と言うもっともらしい理屈で、原発の設備内容は公開されていませんでした。 中央制御室の位置すらつい最近まで分からなかったのです。 やっと分かったことは、すべての冷却の元になる電源が極めて脆弱。 外部電源と言うのは電力会社の電源と始めて分かりました。 これが倒壊。 日立で原発を設計していた大前さんによると、福島第1第2で変電所がトータルで 1つしか無いとのこと。 これが複数あれば、外部電源が生きた可能性が有ります。

非常用のバッテリは数時間しかもたない。 本来は短時間の停電に対応したものでしょう。 その後はジーゼル発電による非常電源の確保。 これが福島では3系統あって、これが売りだったそうですが、恐らく水没して全部やられてしまったのでしょう。 さらには、電源が生きていても、動かすべきポンプが水没してしまって役に立たないのです。 なぜこういう事になったかと言うと、これらの機器がすべて地下に置かれていたので、簡単に水没してしまったのです。 前述の大前さんは、もっと上に置けと言うのは後知恵だと言っていますが、これはやはり設計者の判断ミスではないでしょうか。

愕然としたのは緊急炉心冷却装置(ECCS、Emergency Core Cooling System)が作動しなかったことです。 耳タコになるぐらいに聞かされた事を思い出しました。 これがあるから安全と言われたのですが、今回はアッサリと結果的に動かなかったと言う事に、原子炉の設計者はよく考えるべきです。 システム上のヌケが何かあったことは間違いありません。

原発の設計者は、メルトダウンの対策まで、どこまでも原発としての危機想定をしていますが、電源はテリトリー外だったと言うことでしょう。 エアポケットになった所に最大のリスクが潜在していたのです。 更に悪いことに、原発が GE製と言う事もあり、電源仕様がアメリカ仕様になっていて、日本の電源車を何台持って行っても役に立たなかったとのことです。 これくらいは電力会社なんだから日本仕様に直しておくべきでした。 逆に電力会社なので、何とかなると油断したのかもしれません。

更に福島第1は、40年の古いBWR炉で、原子炉としてもいろいろ欠陥があったと思います。 BWRは原子炉で発熱した蒸気で直接タービンを回して発電します。 一見構造が簡単、また沸騰することで蒸気の泡が出て、これが炉心の核暴走を止める方向に動くと言う、核暴走が最大のテーマであった時代に作られた原子炉と言う事が出来ます。 炉心とタービンが繋がっているので、放射能が出やすい、 冷却水が抜けやすい、タービンとの距離に制約がある、制御棒が挿入できない可能性がある、などの欠点があり、それがほとんど裏目に出ている感じです。

冷却水をどんどん注入しています。 事故が起こったときの記者会見で、真っ先に注入した水はどこに行くのか? と言う質問が有りましたが、うやむやになっていて、現在になって初めて高濃度の汚染水が溜まっていた! と言う事になっています。 対策が後手後手になっています。 だからアメリカはイライラして、どんどん人員を送り込んでくるのです。 下手したら、放射能が偏西風に乗ってアメリカに到達しますから。

現在の最新のBWRは、改良型になっていて、つまり原型には欠陥が有ると言うことで、日本で始めて改良型のABWRの建設・営業運転が行われました。 現在、東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所6,7号(1996年、1997年)中部電力(株)浜岡原子力発電所5号(2005年)および北陸電力(株)志賀原子力発電所2号(2006年)がABWRになっています。

ABWRでは、冷却循環のポンプが圧力容器の内部に入っています。 福島第一の原子炉の循環ポンプはどうも外のタービン建家にあるようです。 無ければ圧力容器の下にあるはずです。 従ってどうしても建屋が高くなる。 地下にポンプ類を置かないといけなくなるのです。 ABWRでは建屋の高さがかなり低くでき、浸水リスクのある地下にポンプ類を置かなくても良い事になります。

原子力発電は必須と思いますが、古い原発は早く廃炉にしてしまうことを考えないといけません。 今回も同様の被害を受けたはずの、同じBWRを採用している福島第2や女川では何とか安定状態に持ち込んでいますので、想定外とは言いながら、はやり弱いところが一気に壊れた感じがします。

2004年の新潟県中越地震で柏崎刈羽原子力発電所が火災を起こしたりして、被害を受けましたが、この時にもう少し念入りに危機対策を立てていれば、今回の災害も少しは防げたのかもしれません。 あの時に古い炉は、思い切って廃炉にする決心をしていれば、と思いますが、不可能だったでしょうね。 後述する六ヶ所村の設備も全く準備できていまでした。 1995年の阪神・淡路大震災から見ても、10年ぐらいの間隔で大地震が起きています。 また10年ほどしたら巨大地震が起きるのではないでしょうか。 その時の備えを十分にしておかないといけないと思います。

しかし、福島第一の最大の危機は、原子炉でなくて、使用済み核燃料プールにあります。 建屋の中の問題になっているプールは、一時保管用で、従ってほとんど防護はありません。 プールはオープンですし、その上はホースで注水しているように、建屋の天井しかなくて、プールの下も5mm ぐらいしか無いステンレスだそうです。 燃料が溶けてプールの底に落ちると底を突き抜ける可能性があり、あんまり高価のないヘリによる注水を強行したのもそのせいだと思います。 特に3号炉は、本体にMOX燃料を使ったプルサーマルで、昨年の10月に入れ替えたばかりですので、建屋の損壊も一番大きいと思います。 使用済み燃料にもプルトニュウムは含まれおり、プルサーマルと言っても余り問題は無いのかも知れませんが、東電としては初期の頃はかなり気になったはずです。 現状ではそんなことより更に事態は深刻になっているので、誰も話題にしなくなりました。

更に、いま最大の問題になりつつあるのは、建屋の外にある使用済み燃料の共同プールの危機です。 ここに建屋の一時保管プールのある燃料の、1.4倍ぐらいの 6400本近くも保管されており、冷却は進んでいるものの、やはり冷却なしでは温度が上がっています。 状況がほどんど分からないとのことで、フランスのサルコジ大統領と民間企業のCEOがやって来たのは、これが心配だったのでしょう。  共用プールは、4号機の西約50mの建物内にあり、縦29m、横12m、深さ11m。 使用済み燃料を6840本(使用量の2倍)収容できるとのこと。

何故こんなに多くの使用済み核燃料が発電所にあるのか。 炉心にあり、さらに一時保管プールにあり、さらに共用プールには6840本の容量に対して、90%以上の6400本ぐらいが格納されている。 つまりほぼ満タン状態だったのです。 これからは、本来は六ヶ所村に中間貯蔵施設を作ってそこに置くはずが、2012年7月にならないと開始できません。 年間900~1,000トンの使用済燃料が発生していますが、未だに建設中の再処理工場の処理能力は年間最大800トンであり、差し引き100~200トンずつ余っていくと言う事になります。 現時点ではそれすらも実現していないことになります。 よく言われたトイレのないマンションと言う状況から未だに脱却していないのです。 さらには、今回の事故で大量に出るであろう高レベル放射性廃棄物の捨て場所も決まっておらず、現状では積んでおくしか手はありません。

地震や津波から復興しても、原子炉を通常冷却に持ち込んでも、電力の問題は残ります。 あと30年は原子炉を作ることが出来ないばかりか、停止中の柏崎刈羽なども再開は難しいでしょう。 関東、特に東京の電力不足は決定的に経済に悪影響を与えます。 恒久的な電力対策を立てる必要があります。 短期的には、この夏の電力不足をどうするかですが、足りない文は 25%と言う非常に微妙な数字で、やってやれないことは無いと思います。 また勘違いしているのは、問題となっているのは、電力消費のピークです。

ピークさえ抑えられたら、後は節電の必要はないのですが、揚水発電と言う一種の電池の様な発電方式があって、夜間の電力が余っている時に揚水して、必要なときに発電する方式の発電所が、調べたら何と 東電だけで 700万kW 近くも有りました。 これがどの程度計画に反映されているか分かりませんが、たかが揚水発電と思っていたら、結構な能力が有ります。 従って、夜間の節電もそれなりに意味があるわけです。 ちなみに揚水機は発電時と揚水時とではエイヤと切り替えて、回転の向きが逆となるため、三相のうち二相を入れ替えたら良いそうです。 単なるアイデアですが、この揚水発電と太陽光発電をを組み合わせると、今までとは逆に夏の盛りには太陽光で電力と揚水蓄電。 夜は揚水発電と太陽光が安定するのではないでしょうか。 バッテリに貯めるのはどうもイマイチと思っています。 バッテリの廃棄が問題となるでしょう。

関西と関東で周波数が異なるのもよく知られていますが、この様な危機対策としては全く不都合です。 この機会に少し無理をしてでも、統一すべきと思います。 ちなみにヨーロッパは50Hz でアメリカが 60Hz になっていますので、どちらでも良いことになります。 一気に変えるのは無理なので、鉄道とか、その他の大電力を必要とする工場に、直接に関西つまり中部電力から送電線を引いて 60Hz化すれば良いと思います。 これを計画停電のブロックごと程度で、順々に切り替えていく。 東電の発電所も送電線をもう1系統追加して、60Hzの送電をすれば良いでしょう。 下手に火力発電所を作ったり、火力発電所と同じぐらいコストの掛かる周波数変換所を作るより、送電線を張るほうがコストは遥かに安くつくし工期も短いはず。 また複数送電で危機対応力も増します。

関西電力を初め関西の原子力発電所は、全部ではないですが、BWRでは無くて、密閉度が高い PWR方式の発電所ですので、原発の危機対応は少し異なると思います。 BWRよりは、熱交換器が一つ多いので、複雑ではありますが、放射能が漏れる可能性は低いです。 今回の事故と同じように冷却システムが停止しても蒸発熱で冷却出来るということです。 また冷却水の非常注入ももっと楽になります。 しかし圧力容器が壊れないと言う保証は、今回の事故でも分かるように、どこにも有りませんので、程度問題と言う事になります。 この件に関しては、九州電力が対応策を簡単ですが示しています。 関西電力は、非常発電機と冷却ポンプを30m以上の高さに設置することを表明していますが、対応策は発表していません。

放射線被爆量に付いても、混乱がたくさんあります。 シーベルトはおなじみになりましたが、ミリシーベルトとマイクロシーベルトの3桁違う数字を同時並べて、さらに単位を間違えると言う状態が続いています。 混乱の元は、被爆を測る単位としてシーベルトは累積値であると言う事が抜けているせいです。 胃のレントゲン検査やCT検査の話は、一時的な話で、ずっとそれを受け続けているわけでは有りません。 基準の100mSvは、1年間当り1msVを一生つまりだいたい100年受けると、それに到達すると言う話で、これで癌になる確率が0.5%アップすると言うデータです。 2人に一人が癌になり、3人に一人が癌で死ぬ時に、100年後に0.5% リスクが上がることが、どれだけ問題かよく解ると思います。 仮に年間 1msVとすると、0.11マイクロsV/時 となり自然放射線の量となります。 この辺の時間当りと年間当りは、時間で4桁違いますので、ミリとマイクロの3桁との混同があるものと思います。 これらは外部被ばくの話ですが、内部被曝にも換算式があってキチンと出ます。

悪いことばかり書いてきましたが、良かったことは、原発がキチンと停止したこと。 何らかの理由で水圧で動く制御棒の挿入がうまくいかないことも有り得ました。 特にBWRは下から水圧で押し上げる形なので、PWRみたいに上から落とす(単に落としても入らないようですが)形よりは事故の可能性は高いですが、ちゃんと3機とも止まりました。

他には新幹線が脱線や事故がなかったこと。 中越地震では脱線しましたが、今回はそういう事はなかったようです。 初期の頃の世界の反応は、この件と被災者が粛々と行動していることでした。 それに比べて原発の対応は遅すぎるし、見えなさ過ぎると言う反応です。

オバマ大統領は、来年の大統領選挙を目前に頭を抱えているでしょう。 大統領選挙の前年は必ず経済はアップすると言われている経済の落ち込みの心配と原発推進を進めた結果もあり、政治生命に関わります。 従ってアメリカ軍は特に原発事故に協力的なのです。 フランスのサルコジ大統領もすぐに動きましたね。 前述の共用プールの心配で自国は原発依存度が高いので気になるのでしょう。 ドイツは懸案の原発使用延期をアッサリと中止しましたし、それぞれ国内問題をこの事故を期にうまく処理しています。

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