今月のひとこと2008年11月号

11月3日
いよいよ秋も深まってきました。 今週はアメリカ大統領選挙で、オバマ大統領が生まれるようです。 期日前の投票が3割を超えるという報道があって、これはオバマに有利に働くでしょう。 震源地のアメリカが大統領選挙をやっているのに、対極にある日本は、総選挙延期でなんとも締まりませんね。 どうせ今回の問題は長期化するので、少々バタバタしてもしょうがないと思います。 また、全世界的な不況なので、日本がジタバタしても外的要因の方が大きいでしょう。 円高と騒いでいましたが、あっという間に100円近くになって、輸出関連企業は当然に為替予約(早い話が先物)を手配しているので、そんなに急激な影響は出ないはずです。

今回の世界同時不況で、金融技術の全てが否定されているような感じですが、サブプライムローンにしても何にしても、リスク分散技術がうまく機能しなかった、もしくは過信したということでしょう。 あれだけの株価や原油先物価格の乱高下の中で、売る人がいて買う人が居ると言うのは良く考えると不思議ですね。 もっとも日本で株価の最大の下げをした時にちょうど株価を見ていたのですが、午前中はほとんど値が付きませんでした。 東証上場の株価があれだけ寄り付きで値が付かないのははじめて見ました。 それでも買い注文と売り注文は出ていました。

今回の問題は、リスクを引き受けるべき金融機関がその対応力以上のリスクを引き受けてしまった事に最大の原因があると思います。 良く調べていませんが、問題を起こした投資銀行に対する規制が甘かったと言う事でしょう。 通常の銀行はBIS規制として自己資本率8%とかの規制がありますが、投資銀行に対する、これが緩すぎたのではないでしょうか。

それにしても、ノーベル経済学賞はどうなっているんでしょう? 今回の金融危機の遠因になっているのは、ご存知ブラックショールズの式で、これでデリバティブの価値を計算できた事によって、現在の広範な証券化の端緒となったと思います。 その前にはLTMの破綻を切っ掛けにしてロシア危機があったのは記憶に新しいところで、このときもノーベル賞受賞者が会社を立ち上げて、それで失敗したと言う事で、この時は個人的な問題として捉えられていたのですが、今回はそれを遥かに凌駕する問題となってきました。

ちなみにノーベル経済学賞は、本当のノーベル賞ではなくて、後で追加されたものと言うことです。 さらにはノーベル賞には数学分野はありませんので、本来のノーベルの趣旨から言うと自然現象を扱わないノーベル経済学賞と言うのは平和賞と並んで胡散臭いもののひとつです。

ノーベル賞と言えば、今回は久々に理論物理の世界で受賞が決まりました。 ヨーロッパのLHCの建設で機運が湧いてきたのでしょうが、少しタイミングが遅かったです。 自発的対称性の破れの南部陽一郎は貰って当然と思っていましたが、本人も30年前までは貰って当然と思っていた、とインタビューに答えています。 CP対称性の破れを観測したリー・ヤンとは意味合いが異なりますが、1957年にノーベル賞を貰っていますので、これよりもっと根源的なので受賞してもおかしくなかった。 それにしても良く生きていた。 死んでいてもちっともおかしくない年齢だし、風貌も変わっていました。 流石に授賞式には行かないそうです。

小林・益川理論も当時は、クオークが6種類以上ないといけないと言う理論があるよ、と言う感じでしたが、トップクオークが発見されて実証されたということで、その時に受賞すべきだったと思います。 ヨーロッパのLHCでは物質に重量を与えるヒッグス粒子の発見が目標ですが、早くもこれが発見されたらノーベル賞だという声もあります。 小林・益川の先生の坂田昌三ももらっておかしくないと思いますが、少し外しているのと、すでに亡くなってしまいました。 残念。

理論物理は、大量生産で色んな可能性を理論的に追求して、それが当たると大きいが外すと何も残らないという感じです。 片方の実験物理は、だんだんと仕掛けにお金がかかるようになってきていますので、例えばヨーロッパのLHCは日本・アメリカ・EUの相乗りになっています。 日本からも若手の研究者が100人以上参加しているそうです。 北京で銀メダルを取ったフェンシングの選手が言っていましたが、世界レベルならほとんどレベルは同じ、思い切って突っ込んでいってそれがたまたまうまく行ったらメダル。 下手したら入賞も出来ない。 学問の世界も同じで、見極めて突っ込んで行って、それが当りなら世界で評価されるということでしょう。

 

 

日本の理論物理の草分けは、何と言っても湯川秀樹。 確かに天才と言って良いでしょう。 彼が中間子のアイデアを考え付いたのは第2次世界大戦の前ですから、大変なものです。 だから、敗戦国にも関わらず受賞できたと思います。 湯川的と言う言葉があるくらいですから。次は、朝永振一郎。 くりこみ理論をJ.S.シュウィンガー R.P.ファインマンと共同受賞しました。 くりこみによって、本来計算が出来ない粒子の電荷などを計算できるようになったのですが、単なる数学テクニックとも思えます。 そのせいか、ノーベル賞の紹介の中ではあんまり出てきません。 しかし、くりこみ可能かどうかは大きな問題で、重力子は繰込みが出来ないので研究が進んでいません。

3人目は江崎玲於奈。 トンネル効果を発見して、半導体の進歩に貢献しましたが、少し工学的な匂いが強いので、これなら他にも西沢潤一はどうだとなります。 貰っても不思議ではない人で、自分でもそう思っていると言うことです。

その後なにもなくて、2002年にニュートリノの小柴昌俊。 カミオカンデが有名ですが、本来は標準理論で予言されている陽子の崩壊を検証するために作ったもので、本人曰くニュートリノを観測したかったが、それでは当時の文部省がうんと言わないのでそうした、との事ですが、作って2-3年で銀河系のごく傍で新星爆発があると言う極めて運の良いめぐり合わせでした。 結局、陽子の崩壊の証拠は得られず、そのうちに検出器が大量に破損して、もしこの時に新星爆発があったら、ノーベル賞はありませんでした。

その後に今回の正統理論物理の系譜とも言うべき受賞で、朝永振一郎以来の40数年ぶりの出来事です。 10次元とかスーパーストリングとかいろいろ話はありますが、最近の理論物理は少し停滞気味ですね。 だからヨーロッパのLHCに期待が集まっているのでしょう。 新たな現象が出てくれば、また理論も進展するでしょう。

ちなみに、これを見ておられるインターネットとかWebサイトとかブラウザとかは、LHCを立ち上げたCERNと言う組織で、論文を共有しようと言うことで始まったのです。 ネットワーク自体は、アメリカで生まれたのですが、その上で動くいわゆるインターネットはCERNのTim Berners-Leeによって、最初のブラウザであるMOSAICが作られました。 その後、シリコングラフィックス (SGI) の創業者ジム・クラークがCEOを投げ打ってしてマーク・アンドリーセンらとモザイク・コミュニケーションズ設立。後にネットスケープコミュニケーションズとなりました。 意外なところで、ノーベル賞とインターネットが結びついているのです。

そう言えば、ネットスケープコミュニケーションズもAOLに買収され、そのAOLもタイム・ワーナー(CNNやワーナー・ブラザーズ等を傘下に持つ)を買収し、世界最大の複合企業体になったが、今はタイム・ワーナー社の一部門になってしまった。 栄枯盛衰。

今月の読み物は、少し古いですが、「入門 超ひも理論―物理学の最終理論をやさしく解説!」広瀬 立成 著 中古商品 ¥660より。 上記のノーベル賞と絡めて読めば面白さ100倍。 ひも理論だけでなくて、理論物理の初歩からの解説があります。 ちなみに南部陽一郎は対象性の破れのほかにひも理論も発表しています。 提唱したのは、大きなと言っても原子サイズのひも。 「超」と付くのはそれより遥かに小さい、極限の空間サイズと言うことです。

出版社/著者からの内容紹介
「この世のあらゆるものは振動するひもからできている」――この驚くべき理論が、いま物理学に革命を起こしている。これまで物質の究極の姿はクォークなどの素粒子であるというのが定説であった。しかし超ひも理論は、それよりもさらに小さい1種類のひもがすべての根源だという。

超ひも理論のすごいところは、これまで発見された色々な素粒子の性質をすっきりと説明できるだけではなく、自然界に存在する重力、電磁力、弱い力、強い力という4つの別々の力を統一――すなわち一つの力の異なる側面として記述することができるのである。

力の統一ということがいかに革命的なことであるかは、アインシュタインがその生涯をかけて取り組みながらも、ついに達成できなかったことを見ても明らかであろう。

本書はその難解な「超ひも理論」を一般向けに解説したはじめての本。相対性理論や量子力学の初歩からわかりやすく解説してあり、文科系の人でも読める。

内容(「BOOK」データベースより)
みんな“ヒモ”だった!?「この世のあらゆるものは振動するひもから出来ている」―この驚くべき理論がいま物理学に革命を起こしている。アインシュタインも成し得なかった、自然界の4つの力を統一する究極の真実とは。相対性理論、量子力学の初歩から学べる。

内容(「MARC」データベースより)
この世のあらゆるものは振動するひもからできている-。この驚くべき理論がいま物理学に革命を起こしている。アインシュタインも成し得なかった、自然界の4つの力を統一する究極の真実とは? 一般向けにやさしく解説する。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
広瀬 立成
愛知県生まれ。1967年、東京工業大学大学院博士課程修了。東京大学原子核研究所、ハイデルベルク大学・高エネルギー研究所などを経て、現在、東京都立大学理学部教授。理学博士。専攻は高エネルギー物理学実験(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

 

 

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