今月のひとこと2014年2月号





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2014年2月4日
あれよあれよと言う間に株価が下落して、元の木阿弥になってしまいました。 いつも年度末は裏切られると言うか、想定より速く落ちます。 今年は、消費増税を控えているので、みんな身構えていたんでしょう。 3月どころか2月に入る前から落ちました。 2011年の時は3月末に向かって、順調に上がっていたのが、東北大震災で一気に急落。 12年は低迷、昨年はやれやれと思ったところで、連休に来ましたね。 まさにアベノミックスも正念場。 これから真価が問われます。 来年の今頃はどうなっていることでしょう。

来年の消費税10%への道ですが、ほとんど可能性は無いと思います。 元々この8%でも、安倍首相はやる気が無かったと思います。 夏ごろにはそ迷いが見え隠れしてました。 結局、法案を出す時間も無かったし、日本としては一度言ってしまっているので、やめるわけには行かなかったのでしょう。 3%分に相当する5兆を積んで、目を瞑って正面突破です。 しかし10%は、こうは行かないと思います。 出だしからこの株価ですから。

あれよあれよと大きな話題になっているのは、何と言ってもSTAP細胞でしょう。 みんなべた褒めですが、額面どおりなら、またノーベル賞と言うことでしょうが、何か違和感があります。 この分野は世界中の研究者が競って研究しているので、単純なアイデア勝負できる分野では無いと思います。 本当にアイデア勝負なら、他の研究者は大いに恥じるべきですが、そうそう大きな抜けがあるとは思えないです。

だから最初のコメントは、みな一様に「驚いた」と言うことでした。 IPS論文捏造事件も、方法は化学処理でしたので、化学処理はやり尽くして、最後に遺伝子操作による山中方式が成功したのだと思います。 その時点で抜けがあったとしたら、宝くじに当たったようなもので、しかし運も実力の内ですから、それはそれで良いと思います。 山中教授でも「私は運が良かった」と何回もコメントしていましたが、それなりのメジャーな世界でトップを取ろうとしたら、「実力」と「パワー」と「運」は必須でしょう。

私見ですが、STAP細胞の弱いところは、人間の細胞では成功していないことです。 あれだけ短期間に培養できるなら、自分の皮膚であろうが髪の毛であろうが、口の粘膜であろうが、そこからSTAP細胞を作るのは極めて容易のはずですが、出来ていない。 ここにヒントかあると思います。

受精卵から作るES細胞は倫理上の問題があったので、IPS細胞が開発されたんですが、これは遺伝子操作するときに癌を引き起こす遺伝子を使ったので、ガン化の恐れがある。 その後ガン由来の遺伝子を使わずにIPS細胞が作成できて、大いに広まったのです。 今回のSTAP細胞は、報道によるとマウスの新生児のリンパ細胞から作られたとのことで、ES細胞に近いものに刺激を与えてリセットしたのではないかとも言われています。

人間は妊娠期間が長いので、生まれた後ではSTAP細胞にならないのではないかと思います。 また大量にSTAP細胞を作る場合は、ES細胞の時に問題になった程ではないでしょうが、倫理問題が再燃するかもしれません。 いずれにしても注目すべき研究ではあります。

似たような話として、強烈に印象に残っているのは、常温核融合。 米国ユタ州のソルトレイクのホテルに泊まっていて、USA Today の朝刊を見ると、一面トップに掲載されていました。 Fusionとなっていたので、これは核融合の事かなと一瞬辞書を引きたくなるくらいでした。 ビーカーに溶液を入れて電極で電気分解すると、その時に中性子が出たとか、液温が上がってエネルギーが出たとか。 当時の通産省もその気になって予算を付けて、大々的に追試を始めましたが、一向にその気配が無い。 中性子は間違い、エネルギーは電気分解時の電気のエネルギーと言うことになったと思います。 しかし最近まで国の予算でその研究をやっていたと思います。 (写真のリンクの内容は真偽不確かです)

この時の衝撃は、何千億円もかけて、核融合炉を開発しているのに、それと同じことがビーカーの中で出来てしまうと言う、予算をつけた方としては、戦慄すべき話だったわけです。 これと同じで、もし化学刺激でIPSと同じものが出来るのなら、これは大ごとで、IPSにあれだけの(と言ってもまだたいした額ではない)予算をつけて大々的にやっているプロジェクトが無意味になってしまいます。 頭の柔軟な若い女性の研究者の成果と言うだけでは済まない問題がいろいろあると思いますし、それ以前に、IPSと同じに論じて良いのか、と言う問題もあります。 報道は、自由な研究環境、理系の女性と言うことだけに焦点が当たっており、ついこの間もノーベル賞で大騒ぎしたIPS細胞のことをけろっと忘れているようなワイドショーにも幻滅します。

今月の読み物は超硬派です。 ケプラー予想: 四百年の難問が解けるまで 新潮文庫 ジョージ・G. スピーロ著、青木 薫 訳。 1900年にパリで開催された国際数学者会議で、ヒルベルトが重要な未解決問題のひとつとして提起したものですが、私は全く知らなかったです。 ひょんなことからこれを知ってこの本を読み出したのですが、最初の章を読んで、余程止めようかと思ったぐらいですが、途中から俄然面白くなり、読みきりました。

ケプラー予想とは「大きさの等しい球をもっとも効率よく三次元空間に詰め込む方法は、果物屋の店先にオレンジが積まれるときの方法と同じである」と述べている。小さな子どもでさえ、直観的に「正しいのでは?」と思いそうな命題だ。ところが、一見当たり前のようなこの命題の正しさを明らかにすることが、とてつもなく難しかった。

最後は、地図を4色で塗り分ける4色問題と同じく、コンピュータを使って数学的には無理やり証明(証明と言うのか)したのです。 この当時、従来の数学的な手法は、「エレガントな方法」で、コンピュータを使ったのは、「エレファントな方法」だと言うことを聞いたことがあります。

また、同じようなことを本書では、イギリスの数学者イアン・スチュアートは「ワイルズによるフェルマー予想の証明がトルストイの『戦争と平和』なら、ヘールズによるケプラー予想の証明は電話帳のようなもの」だと喩えているのも面白いです。

しかし、もっと面白いのは、コンピュータを使った証明は、それを100%検証することは非常に難しい、一つの問題を別のコードを書いて、別のコンパイラでコンパイルして、別のコンピュータで計算して同じでも、そうではない可能性があると言う批判に対して、従来型の数学的な手法の証明でも間違いはいくらでもあり、論文として出てから何年も経ってから間違いが発見されることもある、と言う反論は興味深いです。

この本の最後の3分の1は、コンピュータの歴史から、数値計算の方法や限界とそれを打ち破る歴史などに費やされていて、数学に興味のお持ちの方以外でも、コンピュータに興味がある方にも面白く読めるものではないかと思います。

★★☆ 理系の男女は是非読むべし。




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