今月のひとこと 2025年6月2日
昨年の4月あたりからフォローしてきた 日本製鉄の US スチール買収が佳境を迎えました。 完全子会社にするという話が決まった、と言う報道があったのですが、 結局は トランプ大統領が最終承認をせずに中途半端になっています。 しかし日本製鉄も良く 頑張りました。 森社長が頑張ったのと、USスチール側がどうしても買収してもらわないといけない状態になっていた事が大きいと思います。
第一次トランプ政権時代の国務長官だった ポンペオ氏までアドバイザーに迎えてまでやって、土俵際 で何とか 持ちこたえたという感じですね。 この結果で日本製鉄さらには日本企業の政治力が如何ほどのものか分かると思って、ずっと注視してきましたが、大したもんだと思います。 まあ 日本製鉄としては、 どんどんお土産を渡す羽目になってしまいましたが 、これはある程度想定していたことなんでしょう。 最後の段階で黄金株 とかいうウルトラCが出てきましたが、これは意外に日本製鉄から出た話らしいですが、如何にも小手先と言う感じで、ウォールストリートのトップの面々が多数居る政権内では採用されなかったようです。
日米貿易交渉を見ていても連想するのは江戸時代のペリーやハリスとの通商交渉です。 明治政府の刷り込みで、必要以上に江戸幕府側がディスられていますが、ペリーが砲艦外交で脅して、その後にタウンゼント-ハリスと井伊直弼の間で交わされた日米修好通商条約 が不平等条約として有名ですが、思うより不平等ではなかったと言うことです。 トランプが日本はタフネゴシエーターと言うくらい、当時の江戸幕府も、朝廷の攘夷論との狭間で苦労して、しかしキッチリと交渉をまとめました。 現在は関税で脅されての交渉ですが、江戸幕府を見習って、したたかな交渉を期待しています。
トランプ 政権の政策の方向性が良く分かりません。 貿易が問題だと言うのは貿易赤字が「悪」と言う点を除けば、中国をWTOに入れたのが間違いの始まりで、中国以外は為替操作とか補助金とかの不公正は少ないと思います。 問題は中国です。 サプライチェーンにしっかりと入り込んでいて、不公正極まりないやり方で、おまけに行儀も悪い。 ここを何とかしないと、いくら関税を弄っても難しいのでは無いでしょうか。
もっと同盟国を大切に連携して共同して中国に対応しないといけませんが、ちょっと交渉しただけで、対中国の関税は30%、中国側は10%、日本の自動車は24%で、一体どっちを向いているのかと言いたくなります。 現時点では対中国交渉はトランプの負けです。
今となっては遅きに失しますが、TPP をきちんと 発動して、中国包囲網を作っておけば良かったのと思います。 日本としては珍しくリーダーシップを発揮してTPPをまとめましたが、 今となってはアメリカは入らないので、ASEANとEUを参加させて、アメリカ抜きでTPPをまとめていくべきです。 すでにイギリスは入っていますので、他の国も十分可能性はあります。 現TPPの参加条件を緩めなければ、中国は入れませんが、中国はいろいろ理屈を付けて入ってこようとするでしょう。 RCEPというのもあるので、中国はこちらをメインに進めてくるのではないでしょうか。
こうなるとロシアと中国さらには北朝鮮がブロック化しますので、それへの対応も必要でしょう。 しかし中国も胡錦涛返りが伝えられますし、ロシアも連邦国家なので、何時崩壊するかもしれません。 しばらくは予断を許さない状況だと思います。
NATOもアメリカが抜けたら力が半減しますが、憲法上の問題はあるとしても日本も何とか参加して対ロシア防衛網を構築すべきでしょう。 こう言う構図では中国とロシアさらには北朝鮮が結託して対抗してくるでしょうが、いずれも日本と国境を接していますので、いずれにしても対応は必要になります。
最近パッとした話が少ないですが、イカロスの話題です。 金星探査機あかつきと相乗りで、2010年に打ち上げられた ソーラーセイルを主推進装置とした宇宙ヨットです。 2019年ごろから通信が途絶えたり、復帰したりを繰り返しましたが、2025年5月になって、全く通信が出来ない状態になってしまって、とうとう追跡を諦めたようで、プロジェクト終了となりました。
プロジェクト終了は残念ですが、宇宙ヨットが今も宇宙を航行していると想像するだけでワクワクします。 14mx14mの帆を広げて、帆には太陽光パネルが貼り付けられて、動力とし、帆自体は太陽光の圧力を受けて加速します。 光の圧力は僅かなので、加速も僅かですが、光速に近いところまで加速できます。
太陽から飛んでくる太陽風で推進する方法もありますが、イカロスは太陽風でなくて、太陽光で加速するらしいです。しかし太陽光はわずかで、全体で0.1gしかかからないようです。 そのため、太陽光パネルで発生した 電力でイオンエンジンを動かして、その推進力も利用しているようです。
こういう風に光や粒子を受けて 宇宙を航行する ヨットみたいなことは、私の感覚的には大好きなので、ずっと前に SF でそういう話があったのですが、実現したというので 当時 非常に感動したことを覚えてます。
IT関連の話題ですが、現在一番多く使われているマイクロチップ というのがインテル発祥の 8051 とのこと。 今なお現役で、1000種以上のバラエティーがあるとのこと。 私もこれが出た時に使ったのですが、非常に 使い勝手が良かった。 その後は当たり前になりましたが、当時は非常に珍しいと思ったのは、ピンにアナログとかデジタルの 入出力があって、それが設定によって切り替えられるということです。
如何にピンをうまく使うか、部品をみんなピンに繋いでしまって、後はタイムシェアで切り替えて使うのです。 例えば表示とキーの入力。 表示していないタイミングで、キーをスキャンすれば、一気にキー入力と表示が出来てしまいます。 こういうのは、当時の伝統的なハード屋さんでは手に負えず、かといってソフト屋さんにも出来ず、の状態でした。
問題は、まずチップが入手できないこと。 なんとか 代理店に交渉しても数個しか入らない。 さらに大きな問題はPROMに書き込んで動作するのですが、この書き込み機が特殊で入手が出来ない。 その後開発して作って商品化しましたが、当時は取りあえず書き込み機を入手するのが最大の仕事でした。

最初のマーケットはアメリカだったので、現地でソフトウェアを修正しても書き込めない。 現地の会社の VP にお願いしたのですが、どこから聞いたのか、真夜中の飛行機で到着する人が持ってるという情報を仕入れてきて、空港の 到着ゲートで待ち受けて、その人間から無理やり半分で 借りてきたみたいですが、これで作業が 前に進んだというような 逸話があります。 もっともこの VP は日本人ですが、 その後事故で亡くなってしまって、 アメリカのビジネスがあまり成長しない一因にもなったと思っています。
さらに記事で見つけたのが PDP/11 まだ 現役で動いてるような感じですが、これは当時としては、スタンダードなミニコンで、 大きな存在でした。 その後 出てきた マイクロチップは みんな PDP/11のコマンドセットを 踏襲してるような気がします。 メインフレームに相当する上位機種は、標準となったVAXです。 性能は現在で言うと一番性能の低いマイクロチップより遅かったと思います。 公称1MIPS。 MIPSなんて言う単位は最近は使いもしません。
標準機になっていて VAXで動くか動かないかというのが当時ありましたが、だいたい1億円 したので 憧れの機種でした。 大きさも大きかったのですが、 何処かに残っているのでしょうか。 サンタクララのコンピューターミュージアムにはあるのではないかと思います。 一度休館日に行ってしまって、もう一度行きたいと思うのですが行く機会がありません。
今月の読み物ですが 「知能とはなにか ヒトとAIのあいだ」 (講談社現代新書 2763) 新書 ? 2025/1/23 田口 善弘 (著)
最初は通常のそもそもAIとは? という話から始まる書籍 だと思って読み(聞き)始めたのですが、 ニューロネットとの関係から始まって、人間と AI との関係について 非常に面白く 解説されていました。 最初の予想に反して非常に面白かった。 現在のLLMは 単なる統計処理 であり、AGIには別のアプローチが必要であるというのはこの筆者の立場ですが、 今日の日経紙にも記事があって、ここではLLMのようにデータを教え込むのでは無くて、AIが自ら学習する方式でないとAGIに到達しないとなっていました。
おそらく、もう一度シンギュラリティがあるのでしょう。 最初はディープ ラーニングで音声認識が高度になり、次のLLMであたかも人間が会話するようなツールが出来ました。 3回目でやっとAGIに到達できる方式が確立するのではないでしょうか。
オープンAIは新しい概念の携帯端末を開発するそうです。 現状のスマホは完成形に近づいていて、次は全部音声で操作するもので、表示は無いそうです。 しかしPCとスマホが共存する様に、新携帯端末、スマホ、PCが共存するようになっていくのでは無いでしょうか。
【Amazonより引用】
チャットGPTに代表される生成AIは、機能を限定されることなく、幅広い学習ができる汎用性を持っている、そのため、将来AIが何を学ぶかを人間が制御できなくなってしまう危険は否定できない。しかし、だからといって、AIが自我や意識を獲得し、自発的に行動して、人類を排除したり、抹殺したりするようになるだろうか。この命題については、著者はそのような恐れはないと主張する。少なくとも、現在の生成AIの延長線上には、人類に匹敵する知能と自我を持つ人工知能が誕生することはない、というのだ。
その理由は、知能という言葉で一括りされているが、人工知能と私たち人類の持つ知能とは似て非なるものであるからだ。
実は、私たちは「そもそも知能とはなにか」ということですら満足に答えることができずにいる。そこで、本書では、曖昧模糊とした「知能」を再定義し、人工知能と私たち人類が持つ「脳」という臓器が生み出す「ヒトの知能」との共通点と相違点を整理したうえで、自律的なAIが自己フィードバックによる改良を繰り返すことによって、人間を上回る知能が誕生するという「シンギュラリティ」(技術的特異点)に達するという仮説の妥当性を論じていく。
生成AIをめぐる混沌とした状況を物理学者が鮮やかに読み解く
本書の内容
はじめに
第0章 生成AI狂騒曲
第1章 過去の知能研究
第2章 深層学習から生成AIへ
第3章 脳の機能としての「知能」
第4章 ニューロンの集合体としての脳
第5章 世界のシミュレーターとしての生成AI
第6章 なぜ人間の脳は少ないサンプルで学習できるのか?
第7章 古典力学はまがい物?
第8章 知能研究の今後
第9章 非線形系非平衡多自由度系と生成AI