今月の一言 2006年2年号





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2月4日
2006年が空けた途端に株式市場は証券市場のみならず政界も巻き込む、大騒ぎになりました。 このまま現在の市況が続くとは考えられずに、どこかで調整局面があると、みんな思っていましたが、こんなに早くやってくるとは思ってみなかったでしょう。 日経平均はほぼ元に戻ったのですが、値動きの大きな小型株はまだ完全に復活してる訳ではありません。 特にライブドアが取引の大半を占めているマザーズは大打撃です。 元々東証1部を中心とした大型株に注目が集まっていましたので、それが今回の事件で加速された面があります。

政界では竹中元金融担当大臣の責任が大きいと思います。 銀行にあれだけうるさかった竹中さんが一種お墨付きを与えたことになる事の重大性を認識していなかったのは問題と思います。 それに他にも、きな臭い話が多い。 俗にMHKと言われていて、もちろん村上、堀江、木村のことですが、特に問題は木村剛氏。 竹中大臣の経済政策の最大のブレーンとして改革に大きな影響を持った人ですが、中小企業を支援するために設立した日本振興銀行を巡って以前からごたごたが続いていて、しかも木村氏の親族を使った資金流用が疑われています。 まあ金額も数億円だから良いと言うのでしょうが、あれだけ正論をぶった人ですからその失望も激しい。 これから更に何か出てくるのかもしれません。

竹中さんは経済学者として、また行政の責任者として、ライブドアに関して何も疑いを持たなかった、と言うのは資質が疑われます。 それこそ免許証を持たずに運転していると言われても仕方が無いでしょう。 150兆円とも言われる個人資産を直接投資に回すというなら安心して投資出来るように、しっかりと説明する責任があります。

村上氏はまだ尻尾を出していませんが、叩けば埃が出るでしょう。 今日の新聞ではライブドアを批判していました。 ライブドアはこの後に説明する粉飾決算やMSCBとインサイダー取引で株価を上昇させ、更には政界とのパイプも作り、これから更に大きくしようとしていた矢先に検察が叩いたと言うことでしょう。 このまま議員になり、格付けも得て、本格的な上場企業となっていたら、恐らく政界を大きく巻き込んだリクルート事件のようなものになったのではないでしょうか。

ライブドアは最初から、かなり胡散臭かった。 楽天やヤフーでも少しおかしいところがあったんですが、ライブドアはもっとも胡散臭い。 楽天より利益が大きいとホリエモンが見栄を切っていた時もありますが、この利益の源泉がなににあったのか、すぐに言える人はいなかったでしょう。 ルールいっぱいに発想を豊かにチャレンジして、良い意味の拝金主義も多少は入れて、新時代のアメリカ型の経営を目指しているのか、と思っていました。 常々その方向は大体良いが、ホリエモンは好きにはなれないと言っていましたので、その直感が当った感じです。

ライブドア事件の本質は、そんな格好の良いものではなくて、旧態然とした粉飾決算です。 匿名投資組合やMSCB(転換価格(下方)修正条項付き転換社債)を使って、自社株の売却を自社の利益に付け替えたと言う構図です。 この間に海外の口座使ったり、いろいろな目くらましを使っているらしいので、その違法性を認識していたのは間違いないでしょう。
このスキームに違法性が無いとなると、株価が付いている限り、自社株を発行して、それをお金に変えて、自社の利益に計上することが(理論的には)無限に出来ることになり、いくらでも利益が上がることになります。 その資金も自社から融資の形で提供すれば、お金がぐるぐる回って、その回る度に利益に計上されて、利益が上がると株価は上がって、更にこの仕組みの効率が良くなると言う、いわゆる錬金術と言うことになります。

MSCBと言う言葉に覚えはありませんか? そうです、あのニッポン放送とフジテレビの買収騒ぎの時に、リーマンブラザーズから800億円の買収資金をMSCBを使って調達しました。 この結果、リーマンブラザーズはほとんどリスクなしに、短期間に10%の80億の利益を上げたのです。 おそらく、これを間近で見たホリエモンは新たなマジックのネタを発見したのでしょう。 その後の買収ではこの手法が多用されています。 しかしこのMSCBと言う仕組みは究極のインサイダー取引ではないのでしょうかね。 MSCBが発行されたら株価が暴落するのは常識です。 まあこの場合は暴騰するんですから、株価がどうなるか分からんと言えばそうなんですが、MSCBの仕組みそのものはライブドアとは関係ないですから。

元々MSCBみたいなややこしいものが何故あるかと言うと、業績の落ちた企業の資金確保はなかな難しく、社債の発行もままなりません。 出資側のリスクを軽減するために、MSCBがあります。 まあ発行する側から言うと、最低でも10%の利息をを保障する借金だと思えば良いでしょう。 一般にMSCBは株価が下がった方が良い様にスキームが作られている場合が多いのですが、それは業績の悪い企業の株価が落ちた時のリスクヘッジとしてあるわけで、逆に上がった時には下がった時より大きな利益が得られるのです。

こう言う仕組みをよく勉強したホリエモンは、価値の無い企業を買収してMSCBを発行させ、それをネタに利益を獲得すると言うスキームを考え出したのでしょう。 これ自身の違法性はあんまり無いと思いますが、この過程で株価操作が行われて株価高値が演出されて、インサイダー情報によりMSCBの利益がほっとくと10%であるのを更に大きくしました。

それにしても、かわいそうなのはヘソクリをはたいてライブドアを買った人たち。 TVで出ていましたが、赤ん坊を抱えた若い奥さんが、いくら買ったのですか? と聞かれて、「100株・・・」と答えていたのが印象的。 このようなお金が関連の株式を含んで1兆円ほど消えてしまったことになります。 大きなお金ですね。 元は1万、2万の財布の現金ですから。

ライブドアの単元株も1株と言うのはビックリです。 最初にライブドアの取引を見たときに、取引高にやたらと端数が多いので、えっと思って見てみたら1株が単元株。 これが10億株あって、1株から取引出来る。 これだけでも東証の単元株式の半分を占めるそうです。 これが原因で東証は取引を途中で中断しないといけないことになりました。 個人株を増やす、取引を活発にする、と言う目的はあったはずで、それが達成されたらシステムがダウンと言うのでは、まともにモノを考えているのか、と言いたくなります。 どこか機能不全を起こしています。

今月の読み物は、「中国農民調査」陳 桂棣 (著), 春桃 (著), 納村 公子 (翻訳), 椙田 雅美 (翻訳) 文藝春秋 ¥2,900(税込)。 訳者としてのコメントから。納村・椙田共訳の本書は、中国で昨年2月、発禁となった問題の書。著者夫妻は3年の年月をかけ、中国でも有数の貧困省・安徽省を踏破して農村問題の発生地を取材。1990年代からいまに至るまでの農村事情をつぶさにレポートした。全体は農民暴動事件の実態、農村問題の本質、農村税制改革のプロセスに分かれている。書かれている人物は、農民から党の最高指導者まですべて実名。04年1月、原著出版後、中国では全国的に注目される話題の書となったが、発禁処分を受け、海賊版が出回ることに。その数、昨年の推定で700万部を超える。いわば「幻の超ベストセラー」。社会保障も教育の保障もないまま、50年あまりひたすら食糧生産の道具として使われてきた。その現実は本書を見ればよくわかるだろう。

題名は毛沢東が実際にやった調査報告と同じタイトルですが、こちらは農民問題ルポ。農民農村農業の三農問題を正面から捉えています。最近では農民の暴動が増えているとの報道がありますが、その規模は不明です。 政府でも数千件の暴動を認めていますので、実際は7万件/年の暴動があるとの情報もあります。中国の農民問題は、日本ではほとんど知られていませんが、これを読むと良く分かります。 300ページもあって、2段組で細かい活字で、中国人の名前が実名でどんどん出てくるので読みにくいな、と思いましたが、ややこしい人名などは読み飛ばしていくと、基本的にルポなのでワリと早く読めます。

結局中国の9億の農民は、この時代においても共産党支配以前の地主支配の構図から抜け出ていないのではないかと思われます。 村の村長の裁量で税金や費用が徴収されると言うのは過去から全く構造として変わっていないのではないかと思われます。

これに対して、中央政府は、温家宝や朱鎔基はそれなりに頑張って実情を知ろうとするのですが、回りがそうさせない。 またあまりにも中国は大きくて、1人や2人がいくら権力を持っていてもどうしようもない、と言う感じがします。 更には、中国には戸籍が農村と都会の2つがあって、その間は完全に切り離されて、差別が起きていると言う矛盾もあるようです。 恐らく最初は農民を守る趣旨で作られたのでしょうが、現在では都会に出てきた農民の差別に繋がっているようです。 中国を正しく理解するための書としては最適。






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