今月のひとこと2014年9号

2014年9月1日
株価は熱狂無き上昇局面ですが、長期金利はまた下がって、0.5%台になってしまって、0.4%台になると言う見通しもあるようです。 欧州もデフレに突入しつつあり、中国も失速して、世界に暗雲が垂れ込めてきています。 10年ほど前にも長期金利は上昇すると言う見方もありましたが、日銀の金融緩和もあり、長期金利は下がる一方です。 巨額の国債を抱える日本政府としては、非常に望ましい姿ではありますが、体に例えると体温が低下しているのと同じで、資本主義の終焉と言う話も出てくるのはこの辺りからでしょう。

日本でも同じ現象は見られますが、中国を見ていて分かるように、剥き出しの市場・資本主義では格差がどんどん拡大します。 この拡大により、資本主義を支えていた中間層が居なくなり、単純な資本家と労働者という、マルクスが考えた状況になりつつあるのではないかと思えるくらいです。 ひょっとするとマルクスが指摘した資本主義の欠陥はやっとこの状況で顕在化してきたのではないかとも考えられています。 マルクスの時代と今ではグローバル化の程度も全く異なるし、状況は違いますが、一歩遅れで、あの時代の状況になって来たのかも知れません。

先日の日経の一面に、量子暗号の記事が出て、何で今頃と気になりました。 要するに記事のポイントは、64カ所の拠点からの量子暗号1カ所に集約できると言うことで、量子暗号の実装技術に関するもので、量子暗号が改めて開発されたわけではありません。 記事によると通信スピードも1メガビットに達したそうで、これなら動画も何とか送れるレベルと思います。

従来は通信速度が遅いので、暗号鍵をお互いに送って、その暗号鍵で暗号化したデータを通常回線で送ると言うものでしたが、速度が上がってくると、そのままのデータを送れるようになります。 量子暗号信号を使って、実際にTV会議を実験したと言う話もあります。 いずれにしても、通信速度と通信距離はトレードオフにあり、今回の記事の通信距離は不明ですが、数百kmの通信に成功しているケースもあります。 オリンピックの2020年に向けて開発が加速すると見られています。

住基ネットやインターネットなどに使われている現在の暗号技術は数学計算の困難さを利用しています。 数字の掛け算は何桁でもすぐに実行できますが、与えられた数字の素因数分解は非常に難しく、要するに時間がかかります。 このかかる時間が何万年と言うことになれば、現実的にはそれは解読不可能と言うことになります。 しかし、この処理時間も所詮はコンピュータの性能如何にかかわるので、費用がかかって良いのなら、スーパーコンピュータを動かすと何ヶ月かの間には解読できるかも知れませんが、これだけのコストをかける価値があるかどうかです。 もう一つは、個人が持つPCを10万台レベルで同時に使って、解読するやり方です。 実際に解読プロジェクトとして、解読に成功していますが、単なる個人の利害だけで、多数の個人のPCを使うのは不可能でしょう。

皮肉なことに量子暗号と兄弟関係にある量子コンピュータを使うと、すぐに解読できると言うことで、幸いなことに量子コンピュータより、量子暗号の方が先に実用化されるようなので、この心配はあまりいらないようです。 しかしながら、通常のPCも進化していますので、何年かの間には、普通のPCで現在の暗号が簡単に解読できるようになるかも知れません。 実際に無線通信の世界では、開発初期では無理だと思われたWEP暗号の解読はほぼ瞬時に行えるようになり、WEPはいわばおもちゃの鍵になってしまいました。 一番安全なのはAESですが、これも長時間のデータ収集で解読できるようなので、短時間でのキーの更新が必須と思います。

今月の読み物は、何と言っても「論文捏造」中公新書ラクレ 村松 秀著¥929。
2002年に発覚、2004年にNHKがドキュメンタリーにした超伝導に関する捏造事件です。 本書は、このドキュメンタリーをベースに書かれているので、中身は濃いです。 このドキュメンタリーは見たような記憶があり、マジックマシンと言うのも思い出しました。 この捏造時間のすごいのは、1年以上も再現実験に誰も成功していないのに、捏造が発覚しなかったこと。 さらには実験データも、全くの捏造だったと言うことです。 発覚しなかったのは、超伝導材料の上に酸化アルミの層を付けると言うアイデアでしたが、どちらの領域にも精通した専門家が居なかったと言うことです。 しかし少し考えると、酸化アルミの蒸着がそんなに簡単に出来るとは思えないのですが、所属したのが、あのトランジスタで有名なベル研究所だったので、部外者はみんなベル研究所が組織を上げて、半導体製造ノウハウを駆使して作ったのだと思い込んだのが発覚を遅らせた理由ではないかと思います。 捏造した本人は存在していて、捏造発覚後も単分子トランジスタなどの論文、これも捏造だったのですが、を発表しています。

今回の、STAP事件と似ているとよく言われるのは、この超伝導でも実験した本人とその上司の関係が非常に似ている。 上司は現場を見ずに、どんどん自ら発表している。 所属組織もベル研と理研と言う超有名であることです。 データ捏造が発覚したときの言い訳も、どこかで打ち合わせたと思うほど同じです。 曰く、データを単に取り間違えた、データが沢山あったので取り間違えた、PCの容量が少ないので、データは削除した云々。

STAPのケースと異なり、上司部下とも現存し、上司は大組織の長に収まっているようで、STAPの上司は自殺をする必要は全くなかったと言う感じです。 そのまま理研の理事ぐらいに収まっても、批判は出るでしょうが、そのまま居座れたと思います。

単なる読み物としても面白かった。 久しぶりに半日に一気に読了しました。

★★★ 特に理系は、是非読むべし

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