2011年11月3日
今月の話題は何と言っても、アップルの創始者スティーブ・ジョブズでしょう。 それにしても、CEOを辞任してからわずかの出来事で、まあアメリカ医学の勝利とでも言っておきましょう。 ジョブズも若い頃はいろいろ言われていましたが早世したことで伝説化しましたね。 世を去ると言うことでは無いにしても、出処進退は大事だと思います。
ジョブズとは、そのレベルは全く異なり、また歳も10ほども違いますが、同じような分野を同じように進んで来たので親近感があります。 サシで合ったこともあります。 原点は、ゼロックスのAltoと言うコンピュータです。 彼はこれを見て、後で大失敗したLisaとMacを作ったんです。 それまでのアップルは玩具みたいなもので、文字が画面に出るだけの代物でした。
このAltoは、モノクロながらA4が縦に表示でき、確かウインドウライクの表示があり、その操作にマウスが考案されました。 一番初期の、木材で出来たマウスをどこかで見た記憶があります。 またイーサネットの原型も実装されており、現在のパーソナルコンピュータの必須条件を満たしていたわけです。 このAltoは、DynaBookで有名なアランケイがParcで作ったものですが、ゼロックスのパロアルト研究所(Parc)というのがスタンフォードの南のPageMillにあって、ここからはAltoのような素晴らしいアイデアが沢山出たが、どれもビジネスにはならなかった、と言うシリコンバレーの伝説の一部になっています。
このAltoを見て衝撃を受けた人間は、いずれにしても沢山いてジョブズも私もその内の一人だったわけです。 更にもう一人の重要な人間は、スタンフォードの学生だったビルジョイです。 彼はSunマイクロシステムを立ち上げ、一歩先に現在で言うパーソナルコンピュータを実現したんです。 この時に、OSはUNIXでウインドウも整理されて、ネットワークもイーサネットの上にTCP/IPが乗るという、現在のネットワーク環境が完成しました。 ビルジョイとは何回か会いました。 飛行機で一緒だったこともありますが、私にとっては神様みたいな人ですから、たいした話もできませんでした。
ジョブズは、Alto→Lisa→Mac→Next→iPod/iPhone という流れだと思います。 私がジョブズに会ったのは、アップルを追われてNext Computer 立ち上げたときで、私がワークステーションを作っていた時です。 Nextのロゴのデザインだけで2000万円近くかけたとかの噂があって、それ以前からデザイン的にな要求にはうるさいと言う評判でした。 シリコンバレーの国道101の東側の、あんまり土地が高くないところのRedwoodに、安普請が多いシリコンバレーでも、いかにも安普請という、一見スマートな事務所に行きました。 話した内容は、こちらの売り込みだったのですが、彼はあんまり興味を示さずに、インドに行った時の話をしていました。
Nextで作ったコンピュータは、早速買い込んで、使ってみたり、中を見たりしました。 この時から、ジョブズのコスト見積は厳しくて、我々がいくら見積もっても、材料減価だけで製品の売値になってしまうと言う感じでした。 作って売って、数が出れば利益になると言う感じでした。 これ以前から彼のコストに対する甘さというか逆に厳しさがいつもありました。 またデザインはシンプルながら凝りに凝っていて、本体はキューブで、本当に真っ四角。 先に出たLISAでも成形品に良くある、いわゆる抜きテーパーと言う傾きがありません。 非常にコストの掛かるやり方で、四角い箱を作っていたんです。 色も黒。 黒といってもいろんな種類があって、青っぽいのや赤っぽいのがあるのですが、我々が別途デザインしていた黒と比べてみると、これが全く同じ。 やはりデザイン屋さんのセンスは世界共通なんだと思い知りました。
マシンの中を開けて基盤というか、マザーボードを見るとこれが整然としている。 ジョブズは基盤の部品の配置にまで美的感覚を要求すると言うウワサでした。 このNextはあんまり成功しませんでいたが、その後アップルに呼び戻されて、その後は皆さんがご存知のような大成功を収めるのです。 戻った後に天敵だったマイクロソフトの支援を受けるのですが、これには正直びっくりしました。 ジョブズもビルゲイツも太っ腹だったんでしょう。 これがうまく行っていなければ、今日のアップルはなかったでしょう。
私がその時にやっていたのは、今で言うパーソナルコンピュータ、当時のワークステーションを開発していました。 Altoのマネをして、ディスプレイも縦と横の両方に使えるようにスタンドを工夫したりしました。 COMDEX とか UNIFORUM とか X-hibition なんぞと言う展示会も出展し、当時の日本はそれこそ日の出の勢いでしたから、モノづくりの日本からとうとう高性能なコンピュータが出てきた、と大変に評判になりました。 OSはUNIXベースでしたが、良いものが無かったので、現地のベンチャーからライセンスを買ったり、ディスクも大容量は日本では無かったので、ロスまで仕入れに行ったりしていました。 コンパイラもシリコンバレーやロスには面白いところが沢山あったので、そこからライセンスを買ったりしていました。 日の出の勢いでお金がいっぱいある当時の日本からやってきたと言う事で現地では大歓迎でした。 今は昔ですね。
アップルより先に立ち上がったSunマイクロシステムですが、最初の SUN1 の設計は非常にエレガントで、びっくりしました。 やはりこう言うセンスではアメリカ特にシリコンバレーには敵わんな、と言うのが正直にな印象でした。 その後、 Sun2 は失敗。 本格的な Sun3 で基礎ができ、その後のインターネットブームに乗ったサーバービジネスで大きく成長しました。 だけど所詮いわゆるハードウエアビジネスだったんです。 その後Javaを開発したんですが、このビジネスモデルを構築できずに、結局オラクルに買収されてしまいました。 ちなみにJavaを開発したジェームズ・ゴスリンとは飛行機で一緒になったことがありましたが、当時の私は全くJavaを知りませんでしたので、これまたロクな話はできませんでした。
当時は要するに私も、ハードウエアビジネスをやっていたんですが、その後インターネットが進展すると、何とかハードとサービスの融合を図れないか、とクラウド的なビジネスを始めました。 これは昨今の節電ブームに乗って、事業拡大しています。 ジョブズのiPodやiTUneも最初はハードビジネスと思っていて、日本の家電メーカーと同じことを始めたのでは? と失望しましたが、1曲1ドルでダウンロードして、その時は赤字と言う記事を見つけて、ジョブズも方向は同じだと感じました。 そこで諦めなかたのが流石ジョブズで、それが最終的にはiPhoneに繋がったのだと思います。
最初にiPodを見たときには、何でこんなものが必要なのか? 当時のMDで十分ではないか、と思ったのですが、一番最初のニーズはジョギング中に聞けることと分かって納得しました。 そういう人かシリコンバレーには多いのです。 しかし、その内にディスクを積んで、何千曲も格納できると言うのには、またもや首を傾げました。 発想がCDやMDでしかなかったので、自分の手持ちの楽曲を全て入れてしまうと言う発想には至りませんでした。 片や自分は、飛行機に乗るときに、20枚入りのCD入れとCD機をガサガサとカバンに入れて持ち歩いていたんです。 これが全部入っていると、それで終わりですよね。 更にネットでダウンロード出来る事にも繋がっていったんです。 その時に日本では、MDのメカを如何に精密にするかに没頭していたんですね。 同じハードビジネスでも、中身が違ったんでしょう。
今日の新聞で、2位じゃダメなんですか? の「京」コンピュータが性能どおりのスピードを出したとの記事がありました。 私がコンピュータを作っていた頃には、コンピュータの性能を表すのに MIPSと言う単位が使われていて、これは1命令の実行回数なんですが、この京はFLOPSで、浮動小数点の計算回数になります。 まあ同じとして(実際は全く異なりますが)、最初の68000のチップを使ったものは1MIPS、1億円したDEC社のVAXでも1MIPSでしたから、それなりのスピードでした。 次に作ったのは、RISCチップを4つ組み込んで100MIPS、さらには計画だけでしたが、1000MIPSまで考えました。 今のパソコンではそれぐらいの性能だと思いますが、流石に1000MIPSまで行くと、当時はその使い道がわかりませんでした。 「京」をMIPSとすると100億MIPSになります。 多少の数、10‐20万台位のパソコンを同時に動かしても太刀打ちできません、流石は世界一。
今月の読み物は、 福島原発の真実 (平凡社新書) 佐藤栄佐久 (著) 新書 ¥777
筆者は県知事を逮捕辞任なのですが、村木さんのケースと同じく、ほぼ冤罪とされる元福島県知事が赤裸々に福島原発について書いています。 今日も再臨界が起きたのではないかと言う報道も出ていますが、原発は巨大プロジェクトですので、その本当の所はなかなか掴みきれません。 少しでも現場で起きていたことを知るために読んでみました。 これを読んでだからどう、と言う事は無いのですが、やはりいろんな事が既に起きていたんだとの印象を強くしました。 原発問題は、技術者の端くれとしては、いつも気になる話題です。
【内容紹介】 日々、深刻の度合を深める福島原発事故。 洪水のように溢れかえる情報の中で人は一体何を信じたらよいのか。 原子炉運転停止、プルサーマル凍結、核燃料税をめぐる攻防……。 国と電力会社が操る「全体主義政策」の病根を知り尽くした前知事が、そのすべてを告発する。