今月のひとこと2014年7月号





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2014年7月2日
せっかく上昇に転じた株価も力不足で停滞してるようです。 消費税アップでもたいして落ち込まなかったほうがすごいと思います。 政府の成長戦略も中身はもっともですが、サプライズがないので材料にはならないのでしょう。 しばらくは持久戦になりそうです。

集団的自衛権の議論も決着したようで、現政府/自民党のチカラ技がすごいです。 自党だけで無く他党の公明党までねじ伏せた感じです。 しかし世の中は改憲論一色になりましたね。 護憲の人もみんな改憲論者になってしまいました。 しかしよく考えないと行けないのは、要するに改憲と言っても9条のことですが、大概の「普通の」改憲容認論者でも、2項の削除もしくは変更で良くて1項は手つかず、と思っているのではないでしょうか? それが、今回はからずも、そうは行かないことが分かりました。 改憲、特に9条の変更でもそう簡単ではないと思います。 マスコミは、ほとんど報道しませんが、何故でしょうね。 気がついていない? もしくは無視している。

今回の議論で出てきたのは、個別的自衛権と集団的自衛権。 さらに突然出てきて、公明党が大慌てした、集団安全保障。 前2者は、ほぼ議論が終わって憲法の解釈の変更と言うことで決着しましたが、集団安全保障は、解釈では難しいと思います。

憲法は自衛権に関しては明確に書いていないので、解釈が可能で、厳密に言うなら2項の「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」は駄目ですが、すでに自衛隊があり、みんな認めているので実施的には問題にならず、将来の改憲時に修正すれば良いと思いますし、これが大方の認識でしょう。

憲法 第9条の1項には、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」とあり、前段部分は無視するとしても、後段では「国際紛争を解決する手段」としては使ってはならないと、明確に書いてあります。 国連の活動は例外ないしは、国際紛争ではないと言う解釈にするんでしょうか。 もの凄く無理があると思います。

日本帝国憲法つまり明治憲法ですが、これは学校では教えてくれないし、あまり話題にもならないのですが、読んでみました。 これが非常に良く出来ています。 明治憲法に戻せと言う議論も少しは理解できます。 あの明治の時代にこれだけの権利意識がちりばめられているのは驚異としか思えません。 改めて明治の人の気概と能力に脱帽します。

この憲法の最大の欠陥は、軍隊のシビリアンコントロールが出来ていなくて、それで先の大戦に至ったと言う議論があります。 確かにそれさえ入っていて、天皇大権が象徴天皇であれば、現憲法とそんなに違わないと感じました。 それで何でこんな事になっているか? 明治の人々の考えに抜けがあったのか? と少し考えてみましたが、こういうことでした。

当時の政府もしくは政党はまだ成熟していなくて、もし軍を政府の中に置くと、時の政府の思うままに動かされてしまうと言う危惧があったようです。 タイのクーデターを見ていても、軍は独立しています。 中国でも軍は共産党のものであり、政府のものではないようです。 だから中国は戦前の日本と同じ道を歩む危険性がある・・・・ と言う議論も可能です。

明治憲法では政府も軍も天皇に所属していました。 だから軍の暴走は天皇がコントロールする責任があったわけで、立憲君主制で、議会が開戦を決議したら天皇は裁可するしか方法が無いと言うのは昭和天皇の言葉ですが、そこまで言うなら、憲法が規定している天皇の統帥権を発揮して軍の暴走を止めなかったのは、天皇の責任と言うことになります。 軍とくに関東軍の暴走に対しては、天皇よりいろいろ発言があったようですが、結果的にはガバナンスが効いていなかったのは明白です。

憲法の話から急に重力波の話です。 ビッグバン後の宇宙は「インフレーション(膨張)」と呼ばれる急拡大現象が発生したとされていて、今年の3月に、南極の望遠鏡「BICEP2」を使って宇宙創世記から残された重力波を発見したとビックニュースになりました。 しかし、その後、この話はノイズを拡大解釈しただけで、証拠にはならないと言うことになりました。 何しろ重力波はもの凄く弱いので、その残滓を調べるのはさらに難しいことになります。 これが発見されれば、インフレーション理論の提唱者の佐藤勝彦教授のノーベル賞は間違いないと言われていますが、存命の間に発見されることを望みます。

これと同じ話は宇宙の背景放射の発見で、これは文句なしにノーベル賞でした。 これは宇宙の始まりのビックバンの時には宇宙は非常な高温でしたが、その後宇宙が膨張するにつれ冷やされて、ほとんど絶対零度まできているのですが、よく調べると、わずかに残っているのです。 要するに宇宙はほんのりと暖かい。 暖かいのはストーブでも分かるように赤外線です。

赤外線の元は光つまり光子ですが、冷えてくるとどんどん波長が長くなり、発見された現時点では、マイクロ波レベルになっています。 その観測に専用の人工衛星も複数打ち上げられて、背景放射の宇宙のムラが発見され、これと現在の宇宙の構造と一致することが確認されています。 これと同じようなことを、インフレーションでも観測しようと言うことです。 しかし電波と重力波では観測の大変さは格段に違うと思います。

今月の読み物は「人口から読む日本の歴史」 講談社学術文庫 鬼頭 宏著 ¥1,037
現在の住民票にあたると言っても良い江戸時代の「宗門改帳」を元に江戸時代の人口、さらには他の文献で平安時代、弥生時代、縄文時代とそれぞれの時代の人口を元にその文明論まで至る話です。 読む前は、退屈な人口研究の本だと思っていたのですが、下手な小説よりも遙かに面白いです。 自分自身、宗門改帳を見たことがあったので、興味が湧きました。

意外なことに、江戸時代でも近郊農家では、貴重な働き手である女性の結婚時期は意外に遅くて、30歳前ぐらい。 私も以前から不思議に思っていて、自分で見た江戸時代の資料でも27歳とか26歳とがいっぱい出てきたので、たまたまそう言う人の資料を見たのか、と思っていましたが、一般的だったようです。 婚期が遅くなると子供の数も減る。 また裕福な家ほど子供の数は多くて、「貧乏人の子沢山」は当たらないとのこと。

また子供の間引きは常に行われていて、貧しいからと言う理由でもなく、裕福な家でも間引きは行われていたようです。 事の性格上なかなか資料には出てこないようですが、出生間隔とか、男女比率を見ていくとだいたいの傾向は出てくるようです。 適切な避妊知識がなく、堕胎は非常に危険が高いので、間引きにと言う手段で、人口調整を行ったようです。

江戸時代でも、都市部の出生率は低いそうです。 江戸の町は流入人口が多いので規模を維持できましたが、出生率は低いままです。 現在の少子化問題を考える上でも非常に参考になる本でした。

内容紹介
歴史人口学が解明する日本人の生と死の歴史増加と停滞を繰り返す四つの大きな波を経て、一万年にわたり増え続けた日本の人口。そのダイナミズムを分析し、変容を重ねた人びとの暮らしをいきいきと描き出す

★★★(少子化問題を考える上でも、是非読むべし)





今月のひとこと2014年6月号





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2014年6月1日
何となくの実感(直感)ですが、4月と5月の真ん中ぐらいまでは、やはり買い控えがあったような気がします。 一般の日常品であれば買いだめは出来ないはずで、5月の真ん中ぐらいからは、元に戻ったと言うよりレベルが少し上がったような気がします。 当初の危惧を抱いた時点からは消費増税はやったの? と言う感じのあっけなさです。 これに調子をつけて10%に向かうと手痛いしっぺ返しを食らうのではないかと、早くも危惧しています。

日経平均は終値で1月29日以来、約4カ月ぶりに75日移動平均線を回復したようです。 これから一気に上がるのか、それとも。 日経平均も一部の株価が影響しているので、個別ではバラバラです。 特に今回は、上がる銘柄と変化が無い銘柄が極端に分かれてきているような気がします。 いずれにしても配当狙いが正しいです。 最近は高配当銘柄の新聞記事が多いですが、この様な記事が出たときには、高配当銘柄の株価も上がっており、あんまりメリットは無いです。 リスクゼロの定期預金にしておいても、0.4%付けば御の字ですから、3-4%付く株式にいくらか回しておいても良いのかも知れません。

STAP細胞の話題は、いつまで経ってもニュースになります。 2本ある論文のうち1本を撤回するということになったようで、例の実験ノートの公開で一気にテンションが落ちてしまった結果ではないでしょうか? それにしても、この小保方側の弁護士は、全くの文系のしかも法律屋(家ではない)ですね。 あんな実験ノートを出せば不利なのは分かりきっているのに、証拠を出せと言われて、ハイこれです、と出したようで、法廷戦術としては正しいのかも知れませんが、あの一件で一気に小保方側が不利になってしまいました。 もう少し中身を見ていたら、こんなことにはならなかったような気がします。

日付も無い実験の前提も無いようなものを出して、何のメリットがあると思ったんでしょうか。 あれなら知財がどうのこうのと理屈を付けて、公表しない方が良かったと思いますよ。 しかしマスコミの報道もいい加減で、一番信用できると思ったのは、関西の8chの朝のニュース番組。 実験ノートの前後のページを分析して、どれくらいの頻度でどれくらいの量が書かれているのかを調べていました。 また、写真の使い回しに関して「真性の画像がある」と言っていましたが、どうもこのマウスの絵がこの「真性の画像」のようです。 理研が取り上げなかった、と言っていましたが、これでは取り上げませんよね。

ITの話題は量子コンピュータと量子暗号通信です。 両方とも新聞記事があった、特に量子コンピュータはカナダのベンチャー発なので、えーっ!?、すでに量子コンピュータが一部でも実現しているのか、とビックリし感心して調べてみました。 実際は、コンピュータが実現したわけでは無くて、、コンピュータ量子コンピュータで可能になる量子ビットを用いた量子アニーリングのみを効率的に行うための実験装置「D-Wave」だっただけです。 GoogleとNASAが購入したのでニュースになったようです。 量子アニーリングとは、条件内の最適解を求める場合の方法で、古典的なコンピュータによる計算より遙かに高速に結果を出せるとなっています。

量子暗号通信は、スマホで使えると言うような報道になっていたので、ビックリしましたが、特に新しいことはなくて、秘密暗号鍵を量子暗号通信を使って送って、それをスマホにダウンロード、その鍵を使ってスマホ同士で暗号通信をすると言うもので、ひょっとすると補助金狙いのデモではないかと思うくらいです。 量子暗号通信をしている区間は良いとしても、そこからスマホにダウンロードする間に盗聴や捏造があれば意味が無くなります。 1回限りの暗号を使うと言うことですが、それは今でも銀行の取引に使われていて、しかもそれが既に破られていて不正引き出しがあったとのこと。 要するにPCなりスマホが乗っ取られてしまっていると、何をしても同じと言うことになります。

スマホのOSはiPhone以外はAndroidが多いです。 AndroidはLinuxの変形ですし、Linuxは気がつくと周りの組み込み機器に非常に多く入っています。 デジカメなどはもちろん、ちょっとした機器にも入っており、最近ではTVにもLinuxベースらしいものがあります。 これだけあると、マルウエア(悪意のあるソフト)に感染して何らかの社会問題になると思うのですが、そうでも無いようです。 特に root権限を奪われてしまうと何でもされてしまうので脅威です。 しかし root権限はそう簡単には奪取できないようになっているようです。 最近では root権限を奪取するマルウエアも発見されていますが、大きく広がるところまで行かないようです。 同じ Linux(Android)と言っても各メーカーで仕様が少しづつ異なるし、簡単にはroot権限を奪われないような対策がされているようです。

今月の読み物は「銀二貫」 (幻冬舎時代小説文庫) 高田 郁 ¥648
全く知らずに、実は一種の時代経済小説だと思って買ってしまって、しばらく積んでおいて、他の本が無くなったので読んでみました。 NHKでドラマ化されているのも知りませんでした。 自分では絶対に買わない分野なのですが、意外に面白かったと思います。 大阪の天神橋/天満橋界隈の話とか、大阪の大火の話などは、あまりよく知らなかったので興味が湧きました。 中心が寒天の話なので、マイナーな話だな、と思っていましたが、日本料理では結構使うようで、寒天の作り方も興味が出てきました。 作者は寒天料理を作ってみるのに時間を大変に使ったとありましたが、確かに文中の寒天の描写には凄まじいものがありました。

★★☆ いわゆる時代劇に興味がある方は必読。



今月のひとこと2014年5月号





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2014年5月4日
消費税アップの影響も想定内で、しかもその程度は低いもののようです。 税込み表示と税抜き表示が入り乱れたのが、逆に日常の買い物で、消費税アップの印象を薄くしたのかも知れません。 いずれにしても消費税アップは成功して、後は来年の10%アップの問題に焦点が移っているようです。 円安効果も輸出には効かず、しかもその効果は時間と共に薄れていきますので、秋の段階で貿易収支の改善が無ければ、10%は難しいし止めた方が良いと思います。 8%の時は迷いに迷って、やっと決心したのですが、10%は余程経済状態が好転しない限り、やらない方が良いと思います。

黒田日銀は物価上昇2%を実現可能だとしていますが、答えはこの秋には出ると思います。 ここでそれなりに物価が上昇していれば良いと思いますが、一般的には困難視されています。 また日銀の国債購入が巨大なので、国債市場の取引が細っているようです。 日銀のおかげで、住宅ローンなどで0.6%を切る利率が実現できています。 これで長期の借入がやりやすくなりましたが、国債市場が縮小しているので、何かのきっかけで一気に利率がアップ、つまり国債が暴落という状況もあり得ると思います。 いずれにしても、異次元の金融緩和は、異常な政策なので、いずれは何からの副作用が顕在化することには間違いが無いと思います。 世界中の金融緩和での副作用が意外に少なかった事も、不安と言えば不安です。 大地震のマグマがたまっているのかも知れません。

ウクライナ情勢もECつまりドイツの情勢読み違いにより混沌としきました。 簡単には決着しそうにないです。 結局ロシアの粘り勝ちになるのではないでしょうか。

今月のITはセキュリティの話題が沢山ありました。 まずほとんどのサーバーの通信に使われているオープンSSL(OpenSSL)の脆弱性問題。 これはHeartbeatと呼ばれていますが、実際に情報漏洩が起きて被害が出ています。 その仕組みは、Heartbeat は、実際の通信が発生していない間でも TLS セッションの接続を維持する、TLS プロトコルの拡張機能で、この機能によって、双方のコンピュータが、もう一度セキュア接続を確立するときに資格情報を再入力する手間も省けます。 この動作は、まず Heartbeat が OpenSSL サーバーにメッセージ、ペイロードに当たる最大 64KB のデータパケットと、ペイロードのサイズに関する情報の 2 つのコンポーネントを送信します。 実際は1KBしかないデータをサイズ 64KB と称して送信できるのです。 この時受け取るデータは 64KB あり、その内の 63KBは、サーバーの他のエリアのデータを読み取ることが出来ます。 この部分に、ユーザーのログイン情報や個人データ、さらにはセッション鍵や秘密鍵が含まれている可能性があります。 おまけにこの操作は何回でも実行でき、さらにそのログが残らないと言う問題もあります。 従って、攻撃者は、何回もこの操作を行い、有用な意味のあるデータが得られるまで、それを繰り返して、個人データや秘密鍵を入手するのです。

ほとんどのWindowsで使われている IE のセキュリティホール。 これにより第三者がIEでアクセスしたコンピュータ上でプログラムコードを動かしたり、意図しないウェブコンテンツへと誘導することが可能になります。 IEのバージョン6 以降、最新版のバージョン11まで、すなわち現在稼働している、ほぼ全てのIEが同じなので、一気に問題が大きくなり、一時はIEの使用を止めるようにと言う発表までありました。 現時点では緊急のパッチが配布されていて、そのパッチを当てれば良いのですが、自動では未だにインストールされず、手動でのインストールが必要なようです。 いろいろなサイトをアクセスする方は、手動でのインストールをお勧めします。 このセキュリティホールによる被害は、まだ報告されていないようです。

今月の読み物は、「頭脳対決! 棋士vs.コンピュータ」 新潮文庫 田中 徹 (著), 難波 美帆 (著) ¥594
先月の新聞記事で、将棋ソフト Ponanza がプロ棋士相手に4勝1敗の記録を作った事(第3回将棋電王戦)が報道されていました。 昨年は3勝1敗1引き分けだったので、ますますソフトが強くなったと言うことです。 チェスに続いて将棋もとうとうコンピュータが強くなってきました。 残るは最難関の囲碁だけになった感があります。

今月のひとこと2014年4月号




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2014年4月4日
消費税増税がスタートして、先が見えたのか、株価は上昇しているようです。 しかし良く見てみると、日経平均やTOPIX銘柄などの一部の株価だけが上がっているようで、全体的には、まだまだのようです。 アベノミックスも減速気味で、追加の金融緩和期待以外に積極的に買いが入る理由も無く、消費増税リスクや中国不動産リスクなどがあり、これからの3ヶ月は不透明な状況が続くでしょう。 追加の金融緩和も、だんだんとその効果は減ってきて、あとは成長戦略ですが、これには時間がかかるし、それよりも現在の成長メニューが中途半端で大物の法人税減税が焦点になるでしょう。
3月中の話題は何と言ってもSTAP細胞騒ぎです。 主要な登場人物は、発表者の小保方晴子ユニットリーダー、その上司で世界で最初にES細胞から網膜を立体的に作った笹井芳樹 理研副センター長、世界初の体細胞クローンマウスの誕生に成功した若山 照彦 山梨大学生命環境学部附属ライフサイエンス実験施設長の3人であることは間違いないでしょう。 そうそうたる実績を持つ2人に比べて、如何にも駆け出しと言う印象の発表者です。 リンクはYoutubeです。
実験ノートが3年間で2冊しか無いと言うことで、しかもその内の1冊はネイチャーの投稿関連なので、実質的には1冊しか無く、その内容も極めてずさんなものだったらしいです。 当初から、報道で写された実験室が異様に綺麗で何も置いていない。 IPSの実験室と比べるサイトもありました。 改めて見てみると確かに本当に実験していたのかと思います。 当人はマスコミが来るためかお化粧バチバチで、ブランド物の洋服が如何にも不釣り合いでした。
実験ノートは、我々では発明ノートに当たるもので、アメリカで開発をしていたときに、アメリカの特許は先願主義ではなく、先発明主義だったので、それを証明するために書くようにしました。 いずれにしても、この様な「非常に職人的なテクニックを要する」実験は、少なくとも 3年間は、不眠不休、お化粧どころか寝る間も無い生活を強いられるはずです。 良い悪いは別にして、ムーミンどころでは無いと思います。
まず声を上げたのは、若山照彦教授。 STAP幹細胞だと言われて、もらった細胞で8匹のクローンマウスを作ったが、このマウスは、最初の論文では8匹中2匹が、STAP細胞由来であると確認されたとのことだったが、その後発表された手順書では、アッサリと8匹とも認められなかったと変更されていた。 これで若山教授も世の中の研究者も唖然として、論文撤回発表につながったものと思います。 写真の誤用より衝撃は大きかった。
同時に理研内部の研究者による(理研から出ていた)データを解析したところ、STAP細胞と称するものは、ES細胞に極めて近いことが判明しました。 ES細胞は、笹井芳樹 理研副センター長の専門分野ですので、入手は極めて容易だと思います。
笹井芳樹 理研副センター長はエリート中のエリートですが、IPSの山中伸弥 京都大学iPS細胞研究所所長とライバル関係にあり、結果的にIPSに敗れたと言う関係です。 STAPのメリットは大半がIPSの欠点に対応するもので、STAPの万能性に対して、IPSを強く意識してたことは間違いないようです。 いずれにしても、笹井副センター長は理研の組織としての責任もありますから、極めて重いと思います。 若山照彦教授が同じ責任を問われるのは、理研の組織責任回避としか思えません。 Natureへの論文投稿ですが、若山教授が手伝ったときには却下され(若山教授談)、その後笹井副センター長が手伝ってやっと投稿に成功したと言うことです。
現時点での結論は、STAP細胞は存在するかもしれないが、小保方論文では作れない。 ES細胞を取り違えたのか、(わざと)混入したと思われます。 最初にこのニュースを聞いたときに、理屈なしに(間違えて混入したと)そう思いましたし、ツイッターなどを見ていると、世の中の研究者も大半は、そう思ったらしいです。
本件で初めて知ったのですが、ネットにはDNAのゲノム解析データを視覚化して共有するツールがいろいろあると言うことです。 インターネットが開発された当初は、主に情報関連の技術者の情報交換が主目的でしたが、今やどのような分野の研究であろうと、必ずコンピュータを使ってデータ解析を行いますので、このような情報共有は極めてインターネット的であると言えます。 図らずも今回は、ネット上のデータ分析・共有が行われましたが、それ以外でも多数の専門の研究者らしい(匿名で分からないが)人々が意見を活発に交わしていました。
報道や理研の検証委員会では、写真の取り違えとか、文章のコピペが問題の中心になっていますが、これは論文の信憑性に疑問符が付くだけで、本質的な問題では無いと思います。 本人の反論や検証委員会の報告では、間違う以前の真性の画像があるとのことですが、それは誰も見たことがない。 どっちにしても写真だけでSTAPであるとか、万能性があるとかの判断は出来ないと思います。 STAP細胞のDNAゲノム解析データを分析すれば一発で分かると思いますが、みんな慎重に避けている感じがします。
理研の対応も「特定国立研究開発法人」の閣議決定があるためか煮え切らず、分析に1年かかるとかで、引き延ばしを計っているとしか思えないですね。 下村博文文部科学相は引き延ばしを否定しましたが、どんどん尻を叩いて欲しいものです。
高温ガス炉の研究開発推進が、新たな「エネルギー基本計画」に明記されることになったとの報道がありました。 安全な世代型原子炉の候補の一つである高温ガス炉は検討の必要はあると思いますが、何か政治的な臭いがします。 ガス炉は既に研究開発がすすんでいて、一時水素が持てはやされた頃に計画されたのか、水素の発生もポイントの一つです。 確かに炉心溶融はしにくいでしょうが、冷却剤であるヘリウムの漏れが心配になります。 放射化はしないと言いながら、漏れやすいし放射物質が混じる可能性があります。 実現するのではあれば、ナトリウム漏れが止まらなかった「もんじゅ」の二の舞にならない事を祈ります。
本欄で以前に紹介した溶融塩炉も有力な選択肢と思います。 冷却剤が溶融塩であるので、漏れても固まるだけと言うのが最大のメリットです。 欠点は、日本での実績が無いことです。 技術的には溶融塩の腐食性の問題がありますが、片や高温ガス炉と違って常圧で使えることが良い点です。 また副生物して出来るウラン233が強烈なガンマ線を放射するので、保守はロボットがやらないと行けないが、核拡散には有効に働くと言う側面もあるようです。
地球規模では、いずれにしても原発は無くならずに、ますます増えていく。 欠陥だらけの急造品である軽水炉はもちろん、加圧型の原子炉も見直していく必要があります。

今月の読み物は、下天を謀る(上下) (新潮文庫) 安部 龍太郎 価格 各¥724。
藤堂高虎を徳川家康や加藤清正などと絡めたお話です。 関西では、家康に荷担した高虎はあんまり人気が無く、私もあまり関心が無かったのですが、大阪夏の陣で、八尾市がその戦場になり、自宅から少し離れたところに高虎軍の陣地があり、そこから西に向かって進軍していたようです。 当時の陣割を示した古文書も出てきて、最近は関心が出てきたところです。 また、昨年花見に行った大和郡山城や伊賀上野城、津城などがみんな高虎が築いた城で、知行地であったと言うのも関心を引きました。
高虎は2m近い巨漢であったらしいのですが、高野山に隠遁したときは仏像を彫り、城作りでは自分で設計したりして、意外に器用です。 この辺りも共感することが多かったです。 おもしろいのは、伊賀上野城には30mの高さで100m以上もある石垣があるのですが、石組みのプロである穴太衆にやらせたところ、あまりにも高すぎて石を下ろせないので、途中にテラスを作りたいと言ってきたそうです。 アベノハルカスの下の段と同じです。 しかし城の石垣に段を作っては意味が無いので、それなら、石垣の内部を掘って、そこから石を下ろして、最後に埋めたら良い、と言ったら、それは名案と、採用されて30mの石垣が実現したそうです。 いつの時代でも、発想を180度変えるのは、難しいし、それをやると革命的なことが出来ると言う証左だと思いました。 非常に親近感を感じたエピソードでした。
吉村昭の小説とは異なり、時代も古いので、作った場面が多くて、小説らしい感じがしますが、要所要所に徳川実紀などの記録文書の引用があって、実在感を醸し出しています。
大坂夏の陣でも徳川方として参戦し、自ら河内方面の先鋒を志願して、八尾において豊臣方の長宗我部盛親隊と戦う(八尾の戦い)。この戦いでは長宗我部軍の猛攻にあって、一族の藤堂良勝や藤堂高刑をはじめ、600人余りの死傷者を出している。
常光寺の居間の縁側で八尾の戦いの首実検を行ったため、縁側の板は後に廊下の天井に張り替えられ、血天井として現存している。
高虎はこの戦いの戦没者供養のため、南禅寺三門を造営し、釈迦三尊像及び十六羅漢像を造営・安置している。梅原猛によれば、この釈迦如来像は岩座に坐し、宝冠をかぶった異形の像であり、高虎若しくは主君である徳川家康の威厳を象徴しているのではないかという(釈迦如来像は蓮華座に坐し飾りをつけないのが通例)。

★★★(歴史に興味のある人は、是非読むべし)

今月のひとこと2014年3月号





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2014年3月1日
株価の戻りが遅いと言うか、想定通りと言うか、経済アナリストはいろいろ言いますが、このまま4月の消費増税に突入しそうです。 その後の展開も、6月には戻るとか年内はかかるとかいろんな意見がありますが、結構時間がかかると思います。 その結果、10%は見送りになると思っています。 このまま、あと2%アップしたらガタガタになってしまうような気がします。 夏の内閣改造で、麻生さんが残るかどうかで、決まると思っています。

EUもだんだんと日本化しつつあり、デフレに突入の可能性が高くなってきました。 EUは過去はうまく危機を乗り切ってきましたが、じわじわとくるデフレに対応できるのでしょうか。 日本にも影響が大なので気になるところです。 あれだけ円高円高と騒いでおきながら、いざ円安になると、その効果は物価押し上げと一部の海外展開をしなかった、もしくは遅れていた国内生産の比重が高い企業の利益アップにしか効いていないように見えます。

円高の時に中小企業の社長から円高がすべての元凶みたいなことを言われて非常に違和感があって、未だによく覚えています。 国内の中小企業は、それなりに影響はあるのでしょうが、直接の影響は無いはずと思っていましたが、やはり実際に円安になってみると、その効果は限定的であることが明確になってきました。

そもそも自国通貨が高くて文句を言い、安くなって安心すると言うのは、どこかおかしいと以前からの自説ですが、特に原発が止まって燃料費がアップしている現時点での円安は、貿易赤字の原因になります。 もっとも、燃料費のアップはたいしたことは無くて、その試算が過大だとか、円安だけの効果だという話もあります。 いずれにしても、従来言われていたような、円安万能論には限界があると言うことで、これからは適正な為替水準に落ち着いていくと思います。

原因はともかく貿易黒字が急速に減ってしまって、貿易赤字が定着しそうです。 日本は世界最大の債権国ですから、その配当とかを入れた経常収支は、依然黒字なので、当面は問題ないですが、これも減りつつあって、最終的に外貨準備が減り始めると、国富が減少すると言うことで、国債の価値に疑問符が付いて、価格の下落つまり長期金利のアップと言う事態になってくると、これは大変なことになります。

長期金利は日銀の異次元緩和で、低いままです。 一時は乱高下しましたが、最近は落ち着いてきて、しかしこの間見た広告では、変動住宅ローンが0.6%で、びっくりしました。 1%を切った時点でもびっくりしたのですが、その内に0.8%になり、最近は0.7%で、これが底かと思っていたら、さらに下がりました。 これは実際の金利ですから、銀行が調達する金利はもっと安いことになります。

経済とITの狭間の話題は、何と言ってもビットコインでしょう。 年明けからビットコインの新聞記事が増えたなと思っていたら、取引所が閉鎖と言うことで、大きなニュースになりました。 仕組みがイマイチ明確ではありませんが、暗号化技術で良く使われる、公開鍵と秘密鍵の鍵ペアを使った仕組みのようです。 公開鍵を使って振り込みを行い、秘密鍵で引き出すと言うことらしい。 しかし、これだけでは特徴の一つである匿名性が保たれないので、何らかの仕掛けがあると思いますが、技術的には大したものでは無いと思います。

今回の問題は、この鍵ペアが破られたと言うことでは無くて、取引所のサーバーがハッキングされたと言う良くある話だと思います。 もし鍵ペアが純技術的に破られたとしたら、これは大問題で、世の中が根本的にひっくり返る可能性があります。 同じシステムを住基ネットはもちろん、ネットバンクでもセキュリティの高いビジネス口座にも中心的に使われています。

あれだけ大騒ぎして本欄でも取り上げたSTAP細胞が怪しくなっているようです。 論文に掲載の写真が取り違えていたと言うそれ自体は大きな問題ではないのですが、発表から1ヶ月経っても、実験の再現がどの研究所でも出来ていないようです。 ネットを見ると、「いや、1ヶ月では結論が出ない」、「STAPの特徴は短時間に培養できるはず」、「特許も取っているから」、「特許取っても正しい保証は無い」、「特許を完全に押さえないといけないので、論文には全部書いていないはず」、「全部書いていない論文なんて意味が無い、追試が出来ることが論文の必須条件」などなど憶測が渦を巻いています。
要するに、私も感じていましたが、最大の疑念は胎児の細胞にES細胞が混じっていたのでは無いかと言うことだと思います。



本欄で先月取り上げたように、過去の常温核融合事件と展開が似ているので、同じ展開にならないように祈ります。 世界中で追試は行われているはずですが、今までで5-6カ所の否定的な結論しか出ていないようです。 総本山の京都大学IPS細胞研究所の追試とその結果を知りたいものです。

今月の読み物は「世界は分けてもわからない」講談社現代新書 福岡伸一著 ¥ 819
捏造ついでに、思い出したのが、この本。 福岡氏はよくTVにもでて来てフェルメール オタクとしても知られていますが、文章もなかなかうまくて、ファンが多いです。 本書の前半は、まとまりもなく面白みも無いですが、後半は打って変わって筆が冴え渡る。 本書は前半は絶対に読まないで、後半だけお読みください。 読む価値あり。

1980年代、E・ラッカーという高名な生化学者が、癌化におけるリン酸化カスケード理論、「まず司令塔の酵素があり、それにより酵素が次々にリン酸化し、最後に細胞のリン酸化が起きて、細胞が癌化する」を提唱した。ラッカーの研究室はその仮説を実証すべく、蛋白生成、酵素反応、電気泳動の実験を膨大な数行うのだが、誰もその理論を立証できなかった。 現在では、これは正しいとされ、これを元に夥しい数の新薬が作られていて、ノーベル賞級の研究だったのですが、以下のような前代未聞の捏造事件で、その名声は地に落ちてしまいました。

ある時、大学を卒業したばかりのマーク・スペクターという若い研究者が研究室に入り、彼が実験をすると、今まで誰も証明できなかったカスケード理論を立証するデータを次々に生み出していきました。スペクターの実験は彼のみしか成功しないものが多く、彼は「神の手を持つ実験者」と皆からみなされるようになった。 スペクターの努力により、ラッカー教授のリン酸化カスケード理論は完璧に近いものに完成し、あの超一流学会誌「cell」にも論文が載った。

しかし、ひょんな偶然から、彼の実験はすべて捏造ということがばれ、スペクターは行方不明となる。 スペクターは天才実験者ではなく、天才詐欺師であったのだ。

自分のサイトを検索してみたら、4年前にも紹介していました。 こちらも、ご覧ください。
http://masuda.org/jiko/jiko2010b.htm#20101101

★★★ 是非読むべし

今月のひとこと2014年2月号





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2014年2月4日
あれよあれよと言う間に株価が下落して、元の木阿弥になってしまいました。 いつも年度末は裏切られると言うか、想定より速く落ちます。 今年は、消費増税を控えているので、みんな身構えていたんでしょう。 3月どころか2月に入る前から落ちました。 2011年の時は3月末に向かって、順調に上がっていたのが、東北大震災で一気に急落。 12年は低迷、昨年はやれやれと思ったところで、連休に来ましたね。 まさにアベノミックスも正念場。 これから真価が問われます。 来年の今頃はどうなっていることでしょう。

来年の消費税10%への道ですが、ほとんど可能性は無いと思います。 元々この8%でも、安倍首相はやる気が無かったと思います。 夏ごろにはそ迷いが見え隠れしてました。 結局、法案を出す時間も無かったし、日本としては一度言ってしまっているので、やめるわけには行かなかったのでしょう。 3%分に相当する5兆を積んで、目を瞑って正面突破です。 しかし10%は、こうは行かないと思います。 出だしからこの株価ですから。

あれよあれよと大きな話題になっているのは、何と言ってもSTAP細胞でしょう。 みんなべた褒めですが、額面どおりなら、またノーベル賞と言うことでしょうが、何か違和感があります。 この分野は世界中の研究者が競って研究しているので、単純なアイデア勝負できる分野では無いと思います。 本当にアイデア勝負なら、他の研究者は大いに恥じるべきですが、そうそう大きな抜けがあるとは思えないです。

だから最初のコメントは、みな一様に「驚いた」と言うことでした。 IPS論文捏造事件も、方法は化学処理でしたので、化学処理はやり尽くして、最後に遺伝子操作による山中方式が成功したのだと思います。 その時点で抜けがあったとしたら、宝くじに当たったようなもので、しかし運も実力の内ですから、それはそれで良いと思います。 山中教授でも「私は運が良かった」と何回もコメントしていましたが、それなりのメジャーな世界でトップを取ろうとしたら、「実力」と「パワー」と「運」は必須でしょう。

私見ですが、STAP細胞の弱いところは、人間の細胞では成功していないことです。 あれだけ短期間に培養できるなら、自分の皮膚であろうが髪の毛であろうが、口の粘膜であろうが、そこからSTAP細胞を作るのは極めて容易のはずですが、出来ていない。 ここにヒントかあると思います。

受精卵から作るES細胞は倫理上の問題があったので、IPS細胞が開発されたんですが、これは遺伝子操作するときに癌を引き起こす遺伝子を使ったので、ガン化の恐れがある。 その後ガン由来の遺伝子を使わずにIPS細胞が作成できて、大いに広まったのです。 今回のSTAP細胞は、報道によるとマウスの新生児のリンパ細胞から作られたとのことで、ES細胞に近いものに刺激を与えてリセットしたのではないかとも言われています。

人間は妊娠期間が長いので、生まれた後ではSTAP細胞にならないのではないかと思います。 また大量にSTAP細胞を作る場合は、ES細胞の時に問題になった程ではないでしょうが、倫理問題が再燃するかもしれません。 いずれにしても注目すべき研究ではあります。

似たような話として、強烈に印象に残っているのは、常温核融合。 米国ユタ州のソルトレイクのホテルに泊まっていて、USA Today の朝刊を見ると、一面トップに掲載されていました。 Fusionとなっていたので、これは核融合の事かなと一瞬辞書を引きたくなるくらいでした。 ビーカーに溶液を入れて電極で電気分解すると、その時に中性子が出たとか、液温が上がってエネルギーが出たとか。 当時の通産省もその気になって予算を付けて、大々的に追試を始めましたが、一向にその気配が無い。 中性子は間違い、エネルギーは電気分解時の電気のエネルギーと言うことになったと思います。 しかし最近まで国の予算でその研究をやっていたと思います。 (写真のリンクの内容は真偽不確かです)

この時の衝撃は、何千億円もかけて、核融合炉を開発しているのに、それと同じことがビーカーの中で出来てしまうと言う、予算をつけた方としては、戦慄すべき話だったわけです。 これと同じで、もし化学刺激でIPSと同じものが出来るのなら、これは大ごとで、IPSにあれだけの(と言ってもまだたいした額ではない)予算をつけて大々的にやっているプロジェクトが無意味になってしまいます。 頭の柔軟な若い女性の研究者の成果と言うだけでは済まない問題がいろいろあると思いますし、それ以前に、IPSと同じに論じて良いのか、と言う問題もあります。 報道は、自由な研究環境、理系の女性と言うことだけに焦点が当たっており、ついこの間もノーベル賞で大騒ぎしたIPS細胞のことをけろっと忘れているようなワイドショーにも幻滅します。

今月の読み物は超硬派です。 ケプラー予想: 四百年の難問が解けるまで 新潮文庫 ジョージ・G. スピーロ著、青木 薫 訳。 1900年にパリで開催された国際数学者会議で、ヒルベルトが重要な未解決問題のひとつとして提起したものですが、私は全く知らなかったです。 ひょんなことからこれを知ってこの本を読み出したのですが、最初の章を読んで、余程止めようかと思ったぐらいですが、途中から俄然面白くなり、読みきりました。

ケプラー予想とは「大きさの等しい球をもっとも効率よく三次元空間に詰め込む方法は、果物屋の店先にオレンジが積まれるときの方法と同じである」と述べている。小さな子どもでさえ、直観的に「正しいのでは?」と思いそうな命題だ。ところが、一見当たり前のようなこの命題の正しさを明らかにすることが、とてつもなく難しかった。

最後は、地図を4色で塗り分ける4色問題と同じく、コンピュータを使って数学的には無理やり証明(証明と言うのか)したのです。 この当時、従来の数学的な手法は、「エレガントな方法」で、コンピュータを使ったのは、「エレファントな方法」だと言うことを聞いたことがあります。

また、同じようなことを本書では、イギリスの数学者イアン・スチュアートは「ワイルズによるフェルマー予想の証明がトルストイの『戦争と平和』なら、ヘールズによるケプラー予想の証明は電話帳のようなもの」だと喩えているのも面白いです。

しかし、もっと面白いのは、コンピュータを使った証明は、それを100%検証することは非常に難しい、一つの問題を別のコードを書いて、別のコンパイラでコンパイルして、別のコンピュータで計算して同じでも、そうではない可能性があると言う批判に対して、従来型の数学的な手法の証明でも間違いはいくらでもあり、論文として出てから何年も経ってから間違いが発見されることもある、と言う反論は興味深いです。

この本の最後の3分の1は、コンピュータの歴史から、数値計算の方法や限界とそれを打ち破る歴史などに費やされていて、数学に興味のお持ちの方以外でも、コンピュータに興味がある方にも面白く読めるものではないかと思います。

★★☆ 理系の男女は是非読むべし。