今月のひとこと2014年9号

2014年9月1日
株価は熱狂無き上昇局面ですが、長期金利はまた下がって、0.5%台になってしまって、0.4%台になると言う見通しもあるようです。 欧州もデフレに突入しつつあり、中国も失速して、世界に暗雲が垂れ込めてきています。 10年ほど前にも長期金利は上昇すると言う見方もありましたが、日銀の金融緩和もあり、長期金利は下がる一方です。 巨額の国債を抱える日本政府としては、非常に望ましい姿ではありますが、体に例えると体温が低下しているのと同じで、資本主義の終焉と言う話も出てくるのはこの辺りからでしょう。

日本でも同じ現象は見られますが、中国を見ていて分かるように、剥き出しの市場・資本主義では格差がどんどん拡大します。 この拡大により、資本主義を支えていた中間層が居なくなり、単純な資本家と労働者という、マルクスが考えた状況になりつつあるのではないかと思えるくらいです。 ひょっとするとマルクスが指摘した資本主義の欠陥はやっとこの状況で顕在化してきたのではないかとも考えられています。 マルクスの時代と今ではグローバル化の程度も全く異なるし、状況は違いますが、一歩遅れで、あの時代の状況になって来たのかも知れません。

先日の日経の一面に、量子暗号の記事が出て、何で今頃と気になりました。 要するに記事のポイントは、64カ所の拠点からの量子暗号1カ所に集約できると言うことで、量子暗号の実装技術に関するもので、量子暗号が改めて開発されたわけではありません。 記事によると通信スピードも1メガビットに達したそうで、これなら動画も何とか送れるレベルと思います。

従来は通信速度が遅いので、暗号鍵をお互いに送って、その暗号鍵で暗号化したデータを通常回線で送ると言うものでしたが、速度が上がってくると、そのままのデータを送れるようになります。 量子暗号信号を使って、実際にTV会議を実験したと言う話もあります。 いずれにしても、通信速度と通信距離はトレードオフにあり、今回の記事の通信距離は不明ですが、数百kmの通信に成功しているケースもあります。 オリンピックの2020年に向けて開発が加速すると見られています。

住基ネットやインターネットなどに使われている現在の暗号技術は数学計算の困難さを利用しています。 数字の掛け算は何桁でもすぐに実行できますが、与えられた数字の素因数分解は非常に難しく、要するに時間がかかります。 このかかる時間が何万年と言うことになれば、現実的にはそれは解読不可能と言うことになります。 しかし、この処理時間も所詮はコンピュータの性能如何にかかわるので、費用がかかって良いのなら、スーパーコンピュータを動かすと何ヶ月かの間には解読できるかも知れませんが、これだけのコストをかける価値があるかどうかです。 もう一つは、個人が持つPCを10万台レベルで同時に使って、解読するやり方です。 実際に解読プロジェクトとして、解読に成功していますが、単なる個人の利害だけで、多数の個人のPCを使うのは不可能でしょう。

皮肉なことに量子暗号と兄弟関係にある量子コンピュータを使うと、すぐに解読できると言うことで、幸いなことに量子コンピュータより、量子暗号の方が先に実用化されるようなので、この心配はあまりいらないようです。 しかしながら、通常のPCも進化していますので、何年かの間には、普通のPCで現在の暗号が簡単に解読できるようになるかも知れません。 実際に無線通信の世界では、開発初期では無理だと思われたWEP暗号の解読はほぼ瞬時に行えるようになり、WEPはいわばおもちゃの鍵になってしまいました。 一番安全なのはAESですが、これも長時間のデータ収集で解読できるようなので、短時間でのキーの更新が必須と思います。

今月の読み物は、何と言っても「論文捏造」中公新書ラクレ 村松 秀著¥929。
2002年に発覚、2004年にNHKがドキュメンタリーにした超伝導に関する捏造事件です。 本書は、このドキュメンタリーをベースに書かれているので、中身は濃いです。 このドキュメンタリーは見たような記憶があり、マジックマシンと言うのも思い出しました。 この捏造時間のすごいのは、1年以上も再現実験に誰も成功していないのに、捏造が発覚しなかったこと。 さらには実験データも、全くの捏造だったと言うことです。 発覚しなかったのは、超伝導材料の上に酸化アルミの層を付けると言うアイデアでしたが、どちらの領域にも精通した専門家が居なかったと言うことです。 しかし少し考えると、酸化アルミの蒸着がそんなに簡単に出来るとは思えないのですが、所属したのが、あのトランジスタで有名なベル研究所だったので、部外者はみんなベル研究所が組織を上げて、半導体製造ノウハウを駆使して作ったのだと思い込んだのが発覚を遅らせた理由ではないかと思います。 捏造した本人は存在していて、捏造発覚後も単分子トランジスタなどの論文、これも捏造だったのですが、を発表しています。

今回の、STAP事件と似ているとよく言われるのは、この超伝導でも実験した本人とその上司の関係が非常に似ている。 上司は現場を見ずに、どんどん自ら発表している。 所属組織もベル研と理研と言う超有名であることです。 データ捏造が発覚したときの言い訳も、どこかで打ち合わせたと思うほど同じです。 曰く、データを単に取り間違えた、データが沢山あったので取り間違えた、PCの容量が少ないので、データは削除した云々。

STAPのケースと異なり、上司部下とも現存し、上司は大組織の長に収まっているようで、STAPの上司は自殺をする必要は全くなかったと言う感じです。 そのまま理研の理事ぐらいに収まっても、批判は出るでしょうが、そのまま居座れたと思います。

単なる読み物としても面白かった。 久しぶりに半日に一気に読了しました。

★★★ 特に理系は、是非読むべし

今月のひとこと2014年8月号

2014年8月2日
やっと株価が上がりそうになったのですが、また落ちてしまい、一進一退の状況です。 出遅れていた電機関連の業績が上がってきたので、それに牽引されているようです。 頼みのアメリカの経済状況は、良いようでもあり悪いようでもあり、しかし量的緩和は着実に収束しつつあります。 やはりアメリカの金融緩和は特に発展途上国への副作用が大きいと言うことでしょうが、ブラジル辺りは、またミニバブル状況です。

日本は遙か以前から、アメリカもこのQE3まで、膨大な金融緩和を行ったので、その副作用はどうなるのかと思っていましたが、これは想定通りに経済バブルを生じさせました。 効果と副作用を天秤にかけると、やはり効果の方が高いと言うことでしょう。 日本の20年近くの金融緩和にしては意外に副作用が出ていないです。 銀行が抱え込んでしまって、国債の形で政府に貫流されて、市中にはあまり出回っていないのでしょう。 これを良いというのか悪いというのかですね。 効果があまりなくて、国の債務残高だけ積み増したカタチになっています。

アベノミックスのおかげで、予想を上回る物価上昇で、民間の見込みはすべて外れて、黒田さんの一人勝ちみたいになっています。 さてこれからどうなるか? 需給ギャップが結構縮まっているので、サプライサイドの強化とインフレ対策が重要になりますが、インフレ期待とは裏腹に長期金利が上がるどころか下がっています。

今や住宅ローンで0.6%は珍しくなくなっていて、量的緩和を終了しつつあるアメリカでも長期金利は上がっていません。 これから急激に上がると言う人も居ますが、ひょっとしたらこのままずーっと低金利のままに行くのではないでしょうか。 物価は上がり、長期金利は上がらないと言う、巨額の国債を抱えた財務省にとっては、理想的なカタチになっていくのでしょうか。

最近では「ニューノーマル」なる言葉が発明されていて、以前もニュー何とかは結局何も新しいことは無かったと言うことになっているので、結局、新しいことは何も無いと言うことになるのでしょうか。 最近の特に長期金利や中国の参加などを見ていると、ひょっとして今回は「ニューノーマル」なのでは? と思ってしまします。 それはいつも裏切られますが。 いずれにしても日米の直近の7-9月期の経済状況が全てを決めると思います。 消費税アップも絡んで、よくよく眺めていきたいと思います。

今日の読売新聞のトップに、家庭用のルーターによるDNSアンプ攻撃で、容易にインターネット接続プロバイダがダウンさせられると言う記事が載りました。 以前から言われていたのですが、ここ数ヶ月でその攻撃が急増したとのことです。 もっとも家庭用ルーターと言っても少し高級なもので、全国で54万台とのとこと。 心配な方は、確認サイトがありますので、ここで確認すると、自分のルーターと接続先のプロバイダのサーバーの両方が該当しているかどうかが確認できます。

新聞記事によれば今年5月末以降、この攻撃による通信障害を明らかにしたプロバイダは、ジュピターテレコム(JCOM東京都千代田区、利用者282万世帯)、ケイ・オプティコム(大阪市150万世帯)、アルテリア・ネットワークス(東京都港区56万世帯)、DTI(渋谷区)などで、昨年8月には、NTTコミュニケーションズ(千代田区)が運営する最大手のOCN(815万世帯)でも、約40分間にわたってネット利用ができなくなった。 とのこと。

この攻撃方法を要約すると、ドメイン名を実際のIPアドレスに変換するDNSサーバーは、インターネットの基本中の基本の機能ですが、このサーバーのキャッシュに大容量でしかも更新期間がやたらと長いエントリーを設定して、この設定元のIPアドレスを偽装して攻撃先のサーバーにしておきます。 ここで新たな問い合わせをDNSサーバーにすると、応答として最初に設定したキャッシュの大容量のデータが、偽装したIPアドレスつまり攻撃先のサーバーに送られる仕掛けです。

少しの問い合わせデータで大量のデータが返信されるので、アンプ(増幅器)と言う名前が付いています。 これを対策がなされていない54万台のルーターの一部でやれば、プロバイダの接続サーバーへの分散DoS(DDoS)攻撃が簡単に出来、機能が停止してネットにアクセスできなくなります。 ウイルスを使って、面倒なBOTを作る必要もないようです。

原因はDNSサーバーを何の制限設定も無しで立ち上げた事に寄ります。 通常は、プロバイダが運営しているので、設定はキチンとされている場合がほどんどですが、家庭用のルーターは盲点になっていて、DNS機能が付いているとは知らずに、何の制限設定もしないで放置されているのが大半で、ここを攻撃手段に使われているようです。

20年以上前からLSIの高密度化の限界について議論されていましたが、今までは、微細化の限界と言うより、電力による発熱の問題が主で微細化は2の次でした。 電力問題も電圧を下げるとかの対策で対応してきましたが、とうとう微細化の究極である原始1個分の配線が可能になるようです。 一つの論文を元にした記事だけなので、本当に可能なのかは良く分かりませんが、少なくとも一つの限界に達したことは間違いないようです。

記事によると、実験ではインジウム・ヒ素半導体の基板を使い、基板表面はインジウム原子が六角形を組んで整然と並ぶ。六角形の中央には穴が開き、走査型トンネル顕微鏡でインジウム原子を詰めたところ、電子の通路ができた。直線3本で交差点も作った。さらに複雑な回路を作れば、極めて集積度が高いLSIが実現でき、光の粒(光子)を出す光源も実現すると期待されているとのこと。

最近では多層化も進展し、10層はざらで、下手なプリント基板顔負けの多層化が実現しているようで、100層ぐらいまでは行けそうです。 微細化と多層化で、半導体はますます高機能・高性能になっていくようです。 そろそろLSIのトランジスタ(ゲート)の数が脳細胞の数とおなじ水準になってきて、コンピュータが自我をもつのかどうかが議論になっています。 しかしどう考えてもいくらトランジスタの数を増やしても自我を持つ気がしません。 一つ一つの脳細胞が、それぞれ一つのコンピュータぐらいの比較をしないと行けないのかも知れませんが、世の中のコンピュータはほとんどがネットで相互接続されていますから、似たような状況は生まれつつありますが、自我をもつ気配はありません。

今月の読み物は、「資本主義の終焉と歴史の危機」集英社新書 水野 和夫著 ¥799
在庫切れで入手するまで1ヶ月以上かかりました。 今回の主題と一致するのですが、この低金利状態をニューノーマル以上に捉えて、資本主義の終焉まで話を持って行ったものです。 出だしの部分は、共感することも多いのですが、途中からやたらと悲観的になってきて、成長否定主義者の榊原さんが推薦に名を連ねているのが段々と分かりました。 ヨーロッパの経済的な歴史を紐解いているのですが、これは水野さんのヨーロッパ時代の研究の結果でしょう。

気になるのは、時間軸の設定。 長期の話をしているのか、短期なのか、長期と言っても100-200年なのか30年程度なのか、その辺ごっちゃに議論されているので納得性が低いと思います。 さらには、資本主義の次の体系は何かと言っても、何もなく、それに備えると言う程度しか無いです。 今の資本主義を延命する努力をしないと言うことですが、その次のビジョンもなくて、現状で何もせずそのままにしておくと言うのは少し無責任ではないかと思います。 いずれにしても、経済学者でも現在の経済状況をどう捉えて良いのか分からないと言うのが本当のところみたいです。

超短期ですが、この7-9月期の状況で少しは方向性が出てくると思っています。

★☆☆(興味のあるひとだけ読むべし)

今月のひとこと2014年7月号





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2014年7月2日
せっかく上昇に転じた株価も力不足で停滞してるようです。 消費税アップでもたいして落ち込まなかったほうがすごいと思います。 政府の成長戦略も中身はもっともですが、サプライズがないので材料にはならないのでしょう。 しばらくは持久戦になりそうです。

集団的自衛権の議論も決着したようで、現政府/自民党のチカラ技がすごいです。 自党だけで無く他党の公明党までねじ伏せた感じです。 しかし世の中は改憲論一色になりましたね。 護憲の人もみんな改憲論者になってしまいました。 しかしよく考えないと行けないのは、要するに改憲と言っても9条のことですが、大概の「普通の」改憲容認論者でも、2項の削除もしくは変更で良くて1項は手つかず、と思っているのではないでしょうか? それが、今回はからずも、そうは行かないことが分かりました。 改憲、特に9条の変更でもそう簡単ではないと思います。 マスコミは、ほとんど報道しませんが、何故でしょうね。 気がついていない? もしくは無視している。

今回の議論で出てきたのは、個別的自衛権と集団的自衛権。 さらに突然出てきて、公明党が大慌てした、集団安全保障。 前2者は、ほぼ議論が終わって憲法の解釈の変更と言うことで決着しましたが、集団安全保障は、解釈では難しいと思います。

憲法は自衛権に関しては明確に書いていないので、解釈が可能で、厳密に言うなら2項の「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」は駄目ですが、すでに自衛隊があり、みんな認めているので実施的には問題にならず、将来の改憲時に修正すれば良いと思いますし、これが大方の認識でしょう。

憲法 第9条の1項には、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」とあり、前段部分は無視するとしても、後段では「国際紛争を解決する手段」としては使ってはならないと、明確に書いてあります。 国連の活動は例外ないしは、国際紛争ではないと言う解釈にするんでしょうか。 もの凄く無理があると思います。

日本帝国憲法つまり明治憲法ですが、これは学校では教えてくれないし、あまり話題にもならないのですが、読んでみました。 これが非常に良く出来ています。 明治憲法に戻せと言う議論も少しは理解できます。 あの明治の時代にこれだけの権利意識がちりばめられているのは驚異としか思えません。 改めて明治の人の気概と能力に脱帽します。

この憲法の最大の欠陥は、軍隊のシビリアンコントロールが出来ていなくて、それで先の大戦に至ったと言う議論があります。 確かにそれさえ入っていて、天皇大権が象徴天皇であれば、現憲法とそんなに違わないと感じました。 それで何でこんな事になっているか? 明治の人々の考えに抜けがあったのか? と少し考えてみましたが、こういうことでした。

当時の政府もしくは政党はまだ成熟していなくて、もし軍を政府の中に置くと、時の政府の思うままに動かされてしまうと言う危惧があったようです。 タイのクーデターを見ていても、軍は独立しています。 中国でも軍は共産党のものであり、政府のものではないようです。 だから中国は戦前の日本と同じ道を歩む危険性がある・・・・ と言う議論も可能です。

明治憲法では政府も軍も天皇に所属していました。 だから軍の暴走は天皇がコントロールする責任があったわけで、立憲君主制で、議会が開戦を決議したら天皇は裁可するしか方法が無いと言うのは昭和天皇の言葉ですが、そこまで言うなら、憲法が規定している天皇の統帥権を発揮して軍の暴走を止めなかったのは、天皇の責任と言うことになります。 軍とくに関東軍の暴走に対しては、天皇よりいろいろ発言があったようですが、結果的にはガバナンスが効いていなかったのは明白です。

憲法の話から急に重力波の話です。 ビッグバン後の宇宙は「インフレーション(膨張)」と呼ばれる急拡大現象が発生したとされていて、今年の3月に、南極の望遠鏡「BICEP2」を使って宇宙創世記から残された重力波を発見したとビックニュースになりました。 しかし、その後、この話はノイズを拡大解釈しただけで、証拠にはならないと言うことになりました。 何しろ重力波はもの凄く弱いので、その残滓を調べるのはさらに難しいことになります。 これが発見されれば、インフレーション理論の提唱者の佐藤勝彦教授のノーベル賞は間違いないと言われていますが、存命の間に発見されることを望みます。

これと同じ話は宇宙の背景放射の発見で、これは文句なしにノーベル賞でした。 これは宇宙の始まりのビックバンの時には宇宙は非常な高温でしたが、その後宇宙が膨張するにつれ冷やされて、ほとんど絶対零度まできているのですが、よく調べると、わずかに残っているのです。 要するに宇宙はほんのりと暖かい。 暖かいのはストーブでも分かるように赤外線です。

赤外線の元は光つまり光子ですが、冷えてくるとどんどん波長が長くなり、発見された現時点では、マイクロ波レベルになっています。 その観測に専用の人工衛星も複数打ち上げられて、背景放射の宇宙のムラが発見され、これと現在の宇宙の構造と一致することが確認されています。 これと同じようなことを、インフレーションでも観測しようと言うことです。 しかし電波と重力波では観測の大変さは格段に違うと思います。

今月の読み物は「人口から読む日本の歴史」 講談社学術文庫 鬼頭 宏著 ¥1,037
現在の住民票にあたると言っても良い江戸時代の「宗門改帳」を元に江戸時代の人口、さらには他の文献で平安時代、弥生時代、縄文時代とそれぞれの時代の人口を元にその文明論まで至る話です。 読む前は、退屈な人口研究の本だと思っていたのですが、下手な小説よりも遙かに面白いです。 自分自身、宗門改帳を見たことがあったので、興味が湧きました。

意外なことに、江戸時代でも近郊農家では、貴重な働き手である女性の結婚時期は意外に遅くて、30歳前ぐらい。 私も以前から不思議に思っていて、自分で見た江戸時代の資料でも27歳とか26歳とがいっぱい出てきたので、たまたまそう言う人の資料を見たのか、と思っていましたが、一般的だったようです。 婚期が遅くなると子供の数も減る。 また裕福な家ほど子供の数は多くて、「貧乏人の子沢山」は当たらないとのこと。

また子供の間引きは常に行われていて、貧しいからと言う理由でもなく、裕福な家でも間引きは行われていたようです。 事の性格上なかなか資料には出てこないようですが、出生間隔とか、男女比率を見ていくとだいたいの傾向は出てくるようです。 適切な避妊知識がなく、堕胎は非常に危険が高いので、間引きにと言う手段で、人口調整を行ったようです。

江戸時代でも、都市部の出生率は低いそうです。 江戸の町は流入人口が多いので規模を維持できましたが、出生率は低いままです。 現在の少子化問題を考える上でも非常に参考になる本でした。

内容紹介
歴史人口学が解明する日本人の生と死の歴史増加と停滞を繰り返す四つの大きな波を経て、一万年にわたり増え続けた日本の人口。そのダイナミズムを分析し、変容を重ねた人びとの暮らしをいきいきと描き出す

★★★(少子化問題を考える上でも、是非読むべし)





今月のひとこと2014年6月号





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2014年6月1日
何となくの実感(直感)ですが、4月と5月の真ん中ぐらいまでは、やはり買い控えがあったような気がします。 一般の日常品であれば買いだめは出来ないはずで、5月の真ん中ぐらいからは、元に戻ったと言うよりレベルが少し上がったような気がします。 当初の危惧を抱いた時点からは消費増税はやったの? と言う感じのあっけなさです。 これに調子をつけて10%に向かうと手痛いしっぺ返しを食らうのではないかと、早くも危惧しています。

日経平均は終値で1月29日以来、約4カ月ぶりに75日移動平均線を回復したようです。 これから一気に上がるのか、それとも。 日経平均も一部の株価が影響しているので、個別ではバラバラです。 特に今回は、上がる銘柄と変化が無い銘柄が極端に分かれてきているような気がします。 いずれにしても配当狙いが正しいです。 最近は高配当銘柄の新聞記事が多いですが、この様な記事が出たときには、高配当銘柄の株価も上がっており、あんまりメリットは無いです。 リスクゼロの定期預金にしておいても、0.4%付けば御の字ですから、3-4%付く株式にいくらか回しておいても良いのかも知れません。

STAP細胞の話題は、いつまで経ってもニュースになります。 2本ある論文のうち1本を撤回するということになったようで、例の実験ノートの公開で一気にテンションが落ちてしまった結果ではないでしょうか? それにしても、この小保方側の弁護士は、全くの文系のしかも法律屋(家ではない)ですね。 あんな実験ノートを出せば不利なのは分かりきっているのに、証拠を出せと言われて、ハイこれです、と出したようで、法廷戦術としては正しいのかも知れませんが、あの一件で一気に小保方側が不利になってしまいました。 もう少し中身を見ていたら、こんなことにはならなかったような気がします。

日付も無い実験の前提も無いようなものを出して、何のメリットがあると思ったんでしょうか。 あれなら知財がどうのこうのと理屈を付けて、公表しない方が良かったと思いますよ。 しかしマスコミの報道もいい加減で、一番信用できると思ったのは、関西の8chの朝のニュース番組。 実験ノートの前後のページを分析して、どれくらいの頻度でどれくらいの量が書かれているのかを調べていました。 また、写真の使い回しに関して「真性の画像がある」と言っていましたが、どうもこのマウスの絵がこの「真性の画像」のようです。 理研が取り上げなかった、と言っていましたが、これでは取り上げませんよね。

ITの話題は量子コンピュータと量子暗号通信です。 両方とも新聞記事があった、特に量子コンピュータはカナダのベンチャー発なので、えーっ!?、すでに量子コンピュータが一部でも実現しているのか、とビックリし感心して調べてみました。 実際は、コンピュータが実現したわけでは無くて、、コンピュータ量子コンピュータで可能になる量子ビットを用いた量子アニーリングのみを効率的に行うための実験装置「D-Wave」だっただけです。 GoogleとNASAが購入したのでニュースになったようです。 量子アニーリングとは、条件内の最適解を求める場合の方法で、古典的なコンピュータによる計算より遙かに高速に結果を出せるとなっています。

量子暗号通信は、スマホで使えると言うような報道になっていたので、ビックリしましたが、特に新しいことはなくて、秘密暗号鍵を量子暗号通信を使って送って、それをスマホにダウンロード、その鍵を使ってスマホ同士で暗号通信をすると言うもので、ひょっとすると補助金狙いのデモではないかと思うくらいです。 量子暗号通信をしている区間は良いとしても、そこからスマホにダウンロードする間に盗聴や捏造があれば意味が無くなります。 1回限りの暗号を使うと言うことですが、それは今でも銀行の取引に使われていて、しかもそれが既に破られていて不正引き出しがあったとのこと。 要するにPCなりスマホが乗っ取られてしまっていると、何をしても同じと言うことになります。

スマホのOSはiPhone以外はAndroidが多いです。 AndroidはLinuxの変形ですし、Linuxは気がつくと周りの組み込み機器に非常に多く入っています。 デジカメなどはもちろん、ちょっとした機器にも入っており、最近ではTVにもLinuxベースらしいものがあります。 これだけあると、マルウエア(悪意のあるソフト)に感染して何らかの社会問題になると思うのですが、そうでも無いようです。 特に root権限を奪われてしまうと何でもされてしまうので脅威です。 しかし root権限はそう簡単には奪取できないようになっているようです。 最近では root権限を奪取するマルウエアも発見されていますが、大きく広がるところまで行かないようです。 同じ Linux(Android)と言っても各メーカーで仕様が少しづつ異なるし、簡単にはroot権限を奪われないような対策がされているようです。

今月の読み物は「銀二貫」 (幻冬舎時代小説文庫) 高田 郁 ¥648
全く知らずに、実は一種の時代経済小説だと思って買ってしまって、しばらく積んでおいて、他の本が無くなったので読んでみました。 NHKでドラマ化されているのも知りませんでした。 自分では絶対に買わない分野なのですが、意外に面白かったと思います。 大阪の天神橋/天満橋界隈の話とか、大阪の大火の話などは、あまりよく知らなかったので興味が湧きました。 中心が寒天の話なので、マイナーな話だな、と思っていましたが、日本料理では結構使うようで、寒天の作り方も興味が出てきました。 作者は寒天料理を作ってみるのに時間を大変に使ったとありましたが、確かに文中の寒天の描写には凄まじいものがありました。

★★☆ いわゆる時代劇に興味がある方は必読。



今月のひとこと2014年5月号





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2014年5月4日
消費税アップの影響も想定内で、しかもその程度は低いもののようです。 税込み表示と税抜き表示が入り乱れたのが、逆に日常の買い物で、消費税アップの印象を薄くしたのかも知れません。 いずれにしても消費税アップは成功して、後は来年の10%アップの問題に焦点が移っているようです。 円安効果も輸出には効かず、しかもその効果は時間と共に薄れていきますので、秋の段階で貿易収支の改善が無ければ、10%は難しいし止めた方が良いと思います。 8%の時は迷いに迷って、やっと決心したのですが、10%は余程経済状態が好転しない限り、やらない方が良いと思います。

黒田日銀は物価上昇2%を実現可能だとしていますが、答えはこの秋には出ると思います。 ここでそれなりに物価が上昇していれば良いと思いますが、一般的には困難視されています。 また日銀の国債購入が巨大なので、国債市場の取引が細っているようです。 日銀のおかげで、住宅ローンなどで0.6%を切る利率が実現できています。 これで長期の借入がやりやすくなりましたが、国債市場が縮小しているので、何かのきっかけで一気に利率がアップ、つまり国債が暴落という状況もあり得ると思います。 いずれにしても、異次元の金融緩和は、異常な政策なので、いずれは何からの副作用が顕在化することには間違いが無いと思います。 世界中の金融緩和での副作用が意外に少なかった事も、不安と言えば不安です。 大地震のマグマがたまっているのかも知れません。

ウクライナ情勢もECつまりドイツの情勢読み違いにより混沌としきました。 簡単には決着しそうにないです。 結局ロシアの粘り勝ちになるのではないでしょうか。

今月のITはセキュリティの話題が沢山ありました。 まずほとんどのサーバーの通信に使われているオープンSSL(OpenSSL)の脆弱性問題。 これはHeartbeatと呼ばれていますが、実際に情報漏洩が起きて被害が出ています。 その仕組みは、Heartbeat は、実際の通信が発生していない間でも TLS セッションの接続を維持する、TLS プロトコルの拡張機能で、この機能によって、双方のコンピュータが、もう一度セキュア接続を確立するときに資格情報を再入力する手間も省けます。 この動作は、まず Heartbeat が OpenSSL サーバーにメッセージ、ペイロードに当たる最大 64KB のデータパケットと、ペイロードのサイズに関する情報の 2 つのコンポーネントを送信します。 実際は1KBしかないデータをサイズ 64KB と称して送信できるのです。 この時受け取るデータは 64KB あり、その内の 63KBは、サーバーの他のエリアのデータを読み取ることが出来ます。 この部分に、ユーザーのログイン情報や個人データ、さらにはセッション鍵や秘密鍵が含まれている可能性があります。 おまけにこの操作は何回でも実行でき、さらにそのログが残らないと言う問題もあります。 従って、攻撃者は、何回もこの操作を行い、有用な意味のあるデータが得られるまで、それを繰り返して、個人データや秘密鍵を入手するのです。

ほとんどのWindowsで使われている IE のセキュリティホール。 これにより第三者がIEでアクセスしたコンピュータ上でプログラムコードを動かしたり、意図しないウェブコンテンツへと誘導することが可能になります。 IEのバージョン6 以降、最新版のバージョン11まで、すなわち現在稼働している、ほぼ全てのIEが同じなので、一気に問題が大きくなり、一時はIEの使用を止めるようにと言う発表までありました。 現時点では緊急のパッチが配布されていて、そのパッチを当てれば良いのですが、自動では未だにインストールされず、手動でのインストールが必要なようです。 いろいろなサイトをアクセスする方は、手動でのインストールをお勧めします。 このセキュリティホールによる被害は、まだ報告されていないようです。

今月の読み物は、「頭脳対決! 棋士vs.コンピュータ」 新潮文庫 田中 徹 (著), 難波 美帆 (著) ¥594
先月の新聞記事で、将棋ソフト Ponanza がプロ棋士相手に4勝1敗の記録を作った事(第3回将棋電王戦)が報道されていました。 昨年は3勝1敗1引き分けだったので、ますますソフトが強くなったと言うことです。 チェスに続いて将棋もとうとうコンピュータが強くなってきました。 残るは最難関の囲碁だけになった感があります。

今月のひとこと2014年4月号




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2014年4月4日
消費税増税がスタートして、先が見えたのか、株価は上昇しているようです。 しかし良く見てみると、日経平均やTOPIX銘柄などの一部の株価だけが上がっているようで、全体的には、まだまだのようです。 アベノミックスも減速気味で、追加の金融緩和期待以外に積極的に買いが入る理由も無く、消費増税リスクや中国不動産リスクなどがあり、これからの3ヶ月は不透明な状況が続くでしょう。 追加の金融緩和も、だんだんとその効果は減ってきて、あとは成長戦略ですが、これには時間がかかるし、それよりも現在の成長メニューが中途半端で大物の法人税減税が焦点になるでしょう。
3月中の話題は何と言ってもSTAP細胞騒ぎです。 主要な登場人物は、発表者の小保方晴子ユニットリーダー、その上司で世界で最初にES細胞から網膜を立体的に作った笹井芳樹 理研副センター長、世界初の体細胞クローンマウスの誕生に成功した若山 照彦 山梨大学生命環境学部附属ライフサイエンス実験施設長の3人であることは間違いないでしょう。 そうそうたる実績を持つ2人に比べて、如何にも駆け出しと言う印象の発表者です。 リンクはYoutubeです。
実験ノートが3年間で2冊しか無いと言うことで、しかもその内の1冊はネイチャーの投稿関連なので、実質的には1冊しか無く、その内容も極めてずさんなものだったらしいです。 当初から、報道で写された実験室が異様に綺麗で何も置いていない。 IPSの実験室と比べるサイトもありました。 改めて見てみると確かに本当に実験していたのかと思います。 当人はマスコミが来るためかお化粧バチバチで、ブランド物の洋服が如何にも不釣り合いでした。
実験ノートは、我々では発明ノートに当たるもので、アメリカで開発をしていたときに、アメリカの特許は先願主義ではなく、先発明主義だったので、それを証明するために書くようにしました。 いずれにしても、この様な「非常に職人的なテクニックを要する」実験は、少なくとも 3年間は、不眠不休、お化粧どころか寝る間も無い生活を強いられるはずです。 良い悪いは別にして、ムーミンどころでは無いと思います。
まず声を上げたのは、若山照彦教授。 STAP幹細胞だと言われて、もらった細胞で8匹のクローンマウスを作ったが、このマウスは、最初の論文では8匹中2匹が、STAP細胞由来であると確認されたとのことだったが、その後発表された手順書では、アッサリと8匹とも認められなかったと変更されていた。 これで若山教授も世の中の研究者も唖然として、論文撤回発表につながったものと思います。 写真の誤用より衝撃は大きかった。
同時に理研内部の研究者による(理研から出ていた)データを解析したところ、STAP細胞と称するものは、ES細胞に極めて近いことが判明しました。 ES細胞は、笹井芳樹 理研副センター長の専門分野ですので、入手は極めて容易だと思います。
笹井芳樹 理研副センター長はエリート中のエリートですが、IPSの山中伸弥 京都大学iPS細胞研究所所長とライバル関係にあり、結果的にIPSに敗れたと言う関係です。 STAPのメリットは大半がIPSの欠点に対応するもので、STAPの万能性に対して、IPSを強く意識してたことは間違いないようです。 いずれにしても、笹井副センター長は理研の組織としての責任もありますから、極めて重いと思います。 若山照彦教授が同じ責任を問われるのは、理研の組織責任回避としか思えません。 Natureへの論文投稿ですが、若山教授が手伝ったときには却下され(若山教授談)、その後笹井副センター長が手伝ってやっと投稿に成功したと言うことです。
現時点での結論は、STAP細胞は存在するかもしれないが、小保方論文では作れない。 ES細胞を取り違えたのか、(わざと)混入したと思われます。 最初にこのニュースを聞いたときに、理屈なしに(間違えて混入したと)そう思いましたし、ツイッターなどを見ていると、世の中の研究者も大半は、そう思ったらしいです。
本件で初めて知ったのですが、ネットにはDNAのゲノム解析データを視覚化して共有するツールがいろいろあると言うことです。 インターネットが開発された当初は、主に情報関連の技術者の情報交換が主目的でしたが、今やどのような分野の研究であろうと、必ずコンピュータを使ってデータ解析を行いますので、このような情報共有は極めてインターネット的であると言えます。 図らずも今回は、ネット上のデータ分析・共有が行われましたが、それ以外でも多数の専門の研究者らしい(匿名で分からないが)人々が意見を活発に交わしていました。
報道や理研の検証委員会では、写真の取り違えとか、文章のコピペが問題の中心になっていますが、これは論文の信憑性に疑問符が付くだけで、本質的な問題では無いと思います。 本人の反論や検証委員会の報告では、間違う以前の真性の画像があるとのことですが、それは誰も見たことがない。 どっちにしても写真だけでSTAPであるとか、万能性があるとかの判断は出来ないと思います。 STAP細胞のDNAゲノム解析データを分析すれば一発で分かると思いますが、みんな慎重に避けている感じがします。
理研の対応も「特定国立研究開発法人」の閣議決定があるためか煮え切らず、分析に1年かかるとかで、引き延ばしを計っているとしか思えないですね。 下村博文文部科学相は引き延ばしを否定しましたが、どんどん尻を叩いて欲しいものです。
高温ガス炉の研究開発推進が、新たな「エネルギー基本計画」に明記されることになったとの報道がありました。 安全な世代型原子炉の候補の一つである高温ガス炉は検討の必要はあると思いますが、何か政治的な臭いがします。 ガス炉は既に研究開発がすすんでいて、一時水素が持てはやされた頃に計画されたのか、水素の発生もポイントの一つです。 確かに炉心溶融はしにくいでしょうが、冷却剤であるヘリウムの漏れが心配になります。 放射化はしないと言いながら、漏れやすいし放射物質が混じる可能性があります。 実現するのではあれば、ナトリウム漏れが止まらなかった「もんじゅ」の二の舞にならない事を祈ります。
本欄で以前に紹介した溶融塩炉も有力な選択肢と思います。 冷却剤が溶融塩であるので、漏れても固まるだけと言うのが最大のメリットです。 欠点は、日本での実績が無いことです。 技術的には溶融塩の腐食性の問題がありますが、片や高温ガス炉と違って常圧で使えることが良い点です。 また副生物して出来るウラン233が強烈なガンマ線を放射するので、保守はロボットがやらないと行けないが、核拡散には有効に働くと言う側面もあるようです。
地球規模では、いずれにしても原発は無くならずに、ますます増えていく。 欠陥だらけの急造品である軽水炉はもちろん、加圧型の原子炉も見直していく必要があります。

今月の読み物は、下天を謀る(上下) (新潮文庫) 安部 龍太郎 価格 各¥724。
藤堂高虎を徳川家康や加藤清正などと絡めたお話です。 関西では、家康に荷担した高虎はあんまり人気が無く、私もあまり関心が無かったのですが、大阪夏の陣で、八尾市がその戦場になり、自宅から少し離れたところに高虎軍の陣地があり、そこから西に向かって進軍していたようです。 当時の陣割を示した古文書も出てきて、最近は関心が出てきたところです。 また、昨年花見に行った大和郡山城や伊賀上野城、津城などがみんな高虎が築いた城で、知行地であったと言うのも関心を引きました。
高虎は2m近い巨漢であったらしいのですが、高野山に隠遁したときは仏像を彫り、城作りでは自分で設計したりして、意外に器用です。 この辺りも共感することが多かったです。 おもしろいのは、伊賀上野城には30mの高さで100m以上もある石垣があるのですが、石組みのプロである穴太衆にやらせたところ、あまりにも高すぎて石を下ろせないので、途中にテラスを作りたいと言ってきたそうです。 アベノハルカスの下の段と同じです。 しかし城の石垣に段を作っては意味が無いので、それなら、石垣の内部を掘って、そこから石を下ろして、最後に埋めたら良い、と言ったら、それは名案と、採用されて30mの石垣が実現したそうです。 いつの時代でも、発想を180度変えるのは、難しいし、それをやると革命的なことが出来ると言う証左だと思いました。 非常に親近感を感じたエピソードでした。
吉村昭の小説とは異なり、時代も古いので、作った場面が多くて、小説らしい感じがしますが、要所要所に徳川実紀などの記録文書の引用があって、実在感を醸し出しています。
大坂夏の陣でも徳川方として参戦し、自ら河内方面の先鋒を志願して、八尾において豊臣方の長宗我部盛親隊と戦う(八尾の戦い)。この戦いでは長宗我部軍の猛攻にあって、一族の藤堂良勝や藤堂高刑をはじめ、600人余りの死傷者を出している。
常光寺の居間の縁側で八尾の戦いの首実検を行ったため、縁側の板は後に廊下の天井に張り替えられ、血天井として現存している。
高虎はこの戦いの戦没者供養のため、南禅寺三門を造営し、釈迦三尊像及び十六羅漢像を造営・安置している。梅原猛によれば、この釈迦如来像は岩座に坐し、宝冠をかぶった異形の像であり、高虎若しくは主君である徳川家康の威厳を象徴しているのではないかという(釈迦如来像は蓮華座に坐し飾りをつけないのが通例)。

★★★(歴史に興味のある人は、是非読むべし)