今月のひとこと2012年11月号



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2012年11月5日

やっと円が少し安くなってきました。 自国通貨が安くなって、喜ぶというのも妙な話だとは思いますが、国際収支が黒字の国ならではで、安いほうがトータル的にメリットがあるとのことです。 黒字で自国通貨高の傾向のあるところで、安くなると、海外資産が相対的に高くなるので、得をすると言う事です。

また株価も何のカンの言いながら、9000円を挟んだ動きになってきていますし、まあマシになって来たのではないでしょうか? 先日見た記事で、日銀の新しい政策で、貸し出しが多い銀行に、その増えた分を青天井で貸すと言う物がありました。 これはなかなか良いと思いましたが、日銀は清水の舞台から飛び降りる覚悟だったそうです。

そもそも、金融緩和が効果を発揮しない理由のひとつは、貸し出した資金が、結局は国債の購入に使われてしまって、お金が、国債を通じてぐるぐる回っているだけの状態が続いているのです。 その間に国債残高だけ積み上がり、国の金利負担が増えるだけです。

この状態を断ち切るには、成長戦略で、企業が資金を必要として、銀行から貸し出しが増えたら良いのですが、それもなかなか出来ないので、日銀は結果は問わない、とりあえず貸し出せ、と言う事になったみたいです。 二昔前の、銀行の貸し出し合戦を多い浮かべます。 住宅ローンの金利もどんどん下がっていて、確かに日銀が心配するように、いろんな副作用が出てくると思います。 デフレ先進国の日本なので、リスク覚悟で、実験台になるのも止むを得ないです。

最近のITの話題は、何と言っても、ウイルスによる成りすまし脅迫メールででしょう。 何日も報道が続きました。 こう言うのに引っ掛かるサイバーコップも駄目ですが、4人のうち2人までが、身に覚えが無いにも拘らず、犯行を認めているということです。 警察の圧力とそれに対抗出来ない個人の問題が大きいです。

自分ならどうするか? とつい思ってしまいます。 いろんなハッキングツールまがいのソフトも沢山あるので、これを根拠に追求されたらどうしようもないですね。 三重県の男性は、かなり良く分かっている人で、ウイルス感染を判断して、即ネットを切り離したそうです。 普通の人には、なかなか出来ないですめ。 そのためか、ウイルスが削除されずに残っていたとのこと。

不正確なDNA検査の結果で有罪にされた人も居ましたし、いい加減なIPアドレスで犯人に仕立て上げられるとたまらんです。 警察も例の村木さん事件とか、検察証拠捏造事件とか、立て続けに重大な事件が発覚しているのに、まだ体質は変わらんのです。

コンピュータ・ウイルスで思い出しましたが、ウイルス黎明期のころ、ウイルスに感染しました。 分かったのは、まったく見覚えの無いEXELのマクロが動いていたんです。 本来は隠されていたはずで、動作しても分からないはずですが、たまたまウイルスがエラーを起こして、エラーメッセージが出て止まったので分かりました。 当時は単にPCの画面にいたずらするとかの被害ですが、この丸見えのウイルスは、間抜けに見えました。 それで、しばらくファイルに置いていたのですが、イチイチウイルスチェッカに引っ掛かるし、その内に所持自体が違法になったので削除してしまいました。 のんびりしていた時代です。

先日から、原発敷地内での活断層の有無が議論されていて、肝心の専門家と称する人たちの間でも意見の一致が見られないのは問題です。 そもそも活断層の定義そのものがハッキリしないのが問題。 また判断が、あらかじめ掘られていたトレンチの中を2時間ほど見ただけだそうです。 そもそも地震の巣の上に国土がある日本では、原発敷地内には、どんなものであれ断層はあってはならないのでは、ないでしょうか。 それなら敷地の候補が無くなるということでしょうが、それはそれでしょうがないと思わないといけないのではないですか。 やはり活断層の判定をする専門家の頭の中を、原発の継続、停止の結論がよぎるのだと思います。

現状の原発の継続や廃炉はそれなりの判断をしないといけないでしょうが、既に溜まっている使用済み核燃料はどうするんでしょう? 各原発には使用済み核燃料が満タンに近く溜まっています。 さらには、福島第1のように、建屋の最上階に、何の保護も無く水を張っただけで貯められているんです。 原発事故の時にアメリカが一番恐れたのが、この使用済み核燃料で、特に4号炉は、崩れ落ちる心配があって、もしそうなったら、東京まで被害が及んだことでしょう。

この問題と、さらには燃料の再処理も問題で、処理すればするほどプルトニウムが溜まる。 それに応じて高レベル核廃棄物も溜まってくる。 これは原発の稼動に関わらず、今後出てくる問題です。 地下深く埋めてしまうしかないのが現状で、これは世界中どこを探しても、捨て場所は無いでしょう。 だから、無害化する研究開発を至急やらないと、どうしようも無い状態になります。 何でこの研究開発が推進されないのか不思議です。 アメリカが本気でないからがその理由だと思いますが、ウランからプルトニュウムを作る高速増殖炉が構想されるのであれば、高レベル廃棄物の無害化も強力に構想すべきでしょう。 地下永久廃棄処分よりは、もっと現実的な話だと思います。

今月の読み物は、 プルトニウム―超ウラン元素の正体 (ブルーバックス) [新書] 友清 裕昭著 ¥924
最初に本屋で手に取った時は、何だかなー、と今更ながらと思ったのですが、結局買ってみて、正解でした。 妙に力んだところも無く、核憎しとか、核大好きと言うようなものも無く、淡々とそれでもポイントは突いて、プルトニュウムの勉強になりました。 プルとニュウムだけでなく、核廃棄物処理など、結論は出ていないものの、問題をテーブルに過不足無く並べてみせると言う態度は良いと思います。
★★★(今月から評価を付けました。 3つ:是非買って読むべし、2つ:興味が出れば読むべし、1つ:読む必要はない)


今月のひとこと2012年10月号


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2012年10月2日
やっと秋らしくなって来て、今日は秋晴れですが、10月になったので、本欄を書いています。 中国問題を直接の契機として、またアメリカの景気ダウンの影響もあって、株価も下落傾向です。 日経平均8800円も切ってしまって、しばらくは我慢の期間です。 中国の経済状況もどんどん下がっていて、今までは高度成長で何とか国民の不満を抑えていたのが、経済が下降傾向だと、その不満が急激に噴出してきそうです。 尖閣問題もこう言う側面も大きいと思います。

野田首相も、個人としてかチームとしてかはよく分かりませんが、言葉と実行がバラバラしている感じです。 以前から気にはなっていましたが、心からの言葉を聞いたことが無い。 新左翼のアジ演説を思わせる話し方も気になる。 尖閣問題も、これが全てとは思いませんが、こちらから胡錦濤との立ち話を要求しておいて、尖閣について言われて、その2日後に閣議決定したと言う話も、もう少し何とかならないか、1週間ぐらい延ばすとか)と思います。 柳条湖事件のその日にやるのも、中国側から見ると、攻撃(チャージ)しているとしか思えないのでしょう。 次の 韓国大統領とも関係が悪化して、確かにいろいろ理屈はあると思いますが、他人の神経を逆撫でするところがあるのではないでしょうか。 少なくともTVで、例えば谷垣前総裁との話など、いろいろ聞いている感じでは、良い気持ちはしません。

立ち話であっても何でちゃんと相手の胡錦濤を見ないで、下を向くんでしょうか? 確かにずっと向いていて、たまたま下を向いた写真が出たと言う言い訳が聞こえてくるようですが、そんな写真を撮られたら、一国のトップとしてはアカンのです。 既にその前の首相が下むいて胡錦濤と面談したことが問題になっているんですがら、気を付けるべきでしょう。 何であの写真だけが報道されるのか、それも疑問ですが、現に出ているので問題は大きいです。 ちなみに、北朝鮮を初めて訪問した小泉元首相は、相手をまっすぐ見ています。 一瞬たりとも下や横を向くことは無いです。 少なくともそう言う報道映像は無いです。

ライフログが最近盛んになって来たようです。 以前に、VAXの開発で有名なゴードン・ベルが始めたと言う話を聞いていたのですが、最近また日経本誌で紹介されていました。 ゴードン・ベルは1999年から研究を開始したとの事で、10年以上の経験があるのですね。 著作や論文は勿論のこと、走り書きやクレジットカードの明細、航空券の半券、写真などあらゆる物をいつもスキャンすると言うか、デジカメで撮っているんでしょう。 目の前の光景を20秒に1枚写真に撮るそうです。

実は私もライフログとは意識していませんでしたが、以前から記録を残すことを意識していました。 メールや写真は20年分あります。 作った資料もDOS時代を含めて全部残してあります。 ゴードン・ベルのように航空券の半券は非常に重要なもので、これにより、日記を付けていなかった時代の行動がだいたい分かるようになりました。 クレジットカードの明細は勿論、領収書は全部残しています。

日記は一番重要なライフログですね。 すでに20年分溜りました。 先日これが行方不明になって、びっくりして探しまくりました。 日記はメールにして自分に送っていて、更に幾つかの別アカウントに送っているので、完全になくなることは無いのですが、途中の1年分ほどがスッポリ抜けている。 最後は、メールの生ログからメールを復元して、検索しましたが、見つからない。 よくよく考えてみると、その時期は出張が多くてメールをタイミング良く出せない環境だったので、手書きの手帳に書いていました。 手書きの手帳は、それを失くしたり、盗まれたりしたら、それでオシマイなので、やはりメール方式に戻しました。

古くは手書きの日記。 直近では、スマホを使ったライフログ。 10年ほど前に時刻付きのメッセージをPCで書くことを考えましたが、タイミングよく書けないので、記録した時刻に意味がなくなって、止めてしまいました。 今日のようにスマホで、リアルタイムでメモできたら、時刻のタイムスタンプも意味があるかも知れません。 ・・・・なう、と言うのがそうでしょう。 だから、フェイスブックやツイッターなどもライフログの有力なツールとされています。

先日買ったデジカメはGPS付きのものを選びました。 時刻は勿論、その場所、方向も記録できるので、後で復元できます。 撮影した写真を地図の上で示してくれます。 24時間限定ですがGPSによる移動ルートの記録も出来ますので、どの道をどう通ったのかわかります。 車も、エンジンをON/OFFした場所をメールで送ってきますし、必要とあれば、10分単位で場所をメールで送ってきます。 以前は、GPSロガーを持っていましたが、持っていくのを忘れたり、バッテリが切れたりで、その内に使わなくなりました。 スマホでもアプリで場所を記録できるのですが、常にGPSを起動しておくと、バッテリが直ぐになくなるので、実用的ではなかったです。

今月の読み物は、天狗争乱 (新潮文庫) 吉村 昭著 ¥860。 水戸天狗党が筑波山に立て籠ってから、越前敦賀を目前に投降し、その後は悲惨な運命を辿る、延々たる小説です。 上記のライフログみたいに、延々と続く行軍を緻密に再現しました。 武田耕雲斎の肖像画が、先日見に行った高橋由一展で展示されていました。 思わず見入ってしまいました。 顔にぶつぶつが描いてあり、天然痘の跡みたいです。 最後は、死刑353人、遠島136人、追放180人、水戸藩渡し125人、その他10人。 水戸藩渡しは大半が獄死。

当時の攘夷尊王論は、TPPや中国問題を想起させます。 また、如何に戦争をして白兵戦を行うのが、みんな怖かったのか、良く分かります。 大砲は使っていましたが、ある意味で、のんびりした時代だったのです。 この後の日露戦争で、本格的な近代戦になり、更には太平洋戦争では本当に悲惨なものになりました。

内容(「BOOK」データベースより)
桜田門外の変から4年―守旧派に藩政の実権を握られた水戸尊攘派は農民ら千余名を組織し、筑波山に「天狗勢」を挙兵する。しかし幕府軍の追討を受け、行き場を失った彼らは敬慕する徳川慶喜を頼って京都に上ることを決意。攘夷断行を掲げ、信濃、美濃を粛然と進む天狗勢だが、慶喜に見放された彼らは越前に至って非情な最期を迎える。水戸学に発した尊皇攘夷思想の末路を活写した雄編。




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2012年9月3日
株価も、やっと9000円を超えたと思ったら、すぐに8000円台に逆戻り。 超薄商いらしいし、最近の株式は、全く流行りませんね。 Face Bookも売出価格の半分まで落ちたらしいし。

先日の日経だったか、Face Bookの データセンターの話が載っていました。 東京ドーム10個分だそうです。 ここにFace Bookが自分で設計して、公開しているサーバーが、何万台と入っているとのこと。 1日当りの写真のアップロードが3億枚との事。 電気代だけでもすごい金額になるし、問題はその冷却。 外気で直接冷やしていると言うのがウリになっているほど。

日銀も景気見通しを下方修正しているし、震災復興だけでは海外のヘコみを取り戻すには力不足なんでしょう。 中国も実態はかなり悪そうだし、インドも落ちてきている。 もっとも、元々が8%とか6%とかの成長だったので、ヘコむのは当たり前ですが、それに頼ってきた特に日本としてはしんどいところです。 台湾の世界最大のEMSにシャープも支援を仰いでいますが、いっそのこと完全に買収されてしまったほうが良いのかも知れません。 液晶命でずーっとやってきたシャープも、最後の賭けに失敗したんですね。 亀山が出来過ぎた。 好事魔多し。

電卓をやっていた頃、シャープは液晶そのものに手をつけて、その液晶を中心に、基盤一枚で出来るようにして、他の会社を駆逐した。 この頃から、設備でものを作ると言うDNAが有ったのか、生まれたのかは分かりませんが、今から考えるとその当時から、この路線は惹かれていたように思います。 縁があったら、ひょっとしてシャープに就職しててたかも知れんので親近感があります。 液晶テレビ一本でやりだした頃から、少し危ういと思っていました。 他の家電はそんなに強くないですから、TVがコケたら全部コケると言う構図が現実になってしまったようです。 個々には面白い家電もあるんですが、やはり家電は総力戦ですから、少ししんどかったのでは無いでしょうか。

電気と来れば、やはり最大の問題は、原発ですね。 しかし最近の原発の報道を見ていると、普天間の「最低でも県外」を連想するのは私だけでしょうか? 「最低でも脱原発、出来たらゼロ」みたいな風潮を政府が醸し出している感じがしました。 普天間でも同じですが、確かに原発はゼロにした方が良い、これには誰も反論は無いでしょう。 ただし、そのためには何を犠牲にしないといけないのかが、明確になっていません。

原発ゼロは、いわゆる正論です。 正論には正面切って反論するのは出来ないです。 国の安全保障とエネルギー安全保障は言葉も中身も似ています。 私の正論は、エネルギー安全保障の立場、自然が与えてくれたエネルギーを無駄にしない、国際的な原子力政策に責任を持つ、観点で、安全な原発を開発して、有効に使っていくべきだと思っています。

それと政府が言っているエネルギー政策(政策と言えるところまで行ってませんが)ですっぽりと抜け落ちているのが、家庭における都市ガスを利用した燃料電池です。 この議論は、震災前の自民党政権の時に盛んに行われて、補助金まで出たんですが、何故か最近はこの話を聞きません。 意図的に避けているとしか思えません。 先日TV番組で仙谷氏がこれに触れていました。 だから知らないわけでは無いと思います。

日本の電力消費のざっくりと半分は家庭です。 家庭が自足自給したら、電力問題はあっという間に解決するんです。 それが太陽パネルでは、体の良い詐欺みたいなものですから話になりません。 電池も置いたら? と言う話がありますが、自動車のバッテリぐらいで、どれくらい賄えると思っているんでしょう。

燃料電池の開発を促進して、原則的に家庭は自足自給。 これに補助金を付ける。 新築のマンションも設置を義務付け、既存のマンションにも設定を推進する。 他方、電力会社の電気料金は高く設定する。 これで3000万世帯ぐらいに普及すると、原発は要らなくなります。 しかし原発は10-20%程度保持して、火力を減らしていくべきです。 自動車を年間1000万台も作れんですから、年間300万台を作ったら10年で3000万台になります。 不可能な話では無いです。 国内向きの産業なので、太陽光パネルよりも遥かに、景気に寄与するでしょう。

燃料電池はCO2を出さないという話もありますが、燃料電池のための水素を都市ガスの主成分であるメタンから取り出す時に発生します。 メタンはCH4ですから、Hの水素取り出すと、残りはCで、これが炭酸ガスになります。 固体化してどっかに捨てられたら良いのでしょうが、これにもエネルギーが必要でまたCO2が出ます。 私はCO2撲滅論者では無いですが、減炭素はやらないといけないと思います。 何でも過ぎたるは及ばざるが如しで、一気に大量に使うと何かしら問題が出ると思います。

発送電の問題がクローズアップされていますが、大量の電力を送るから大変なので、「地産地消」、「自給自足」すれば、大規模な送電線は要らないと思います。 風力などの、いわゆる再生可能エネルギーはわずかですから、送電線がないのは問題ですが、それなりの送電線があれば良いと思います。 それと電力会社はあまり情報を出しませんが、配送電ロスがどれくらいあるかです。 個々の電線とか変電所とかで見るとわずかでしょうが、トータルで見ると結構大きいのでは無いかと思います。 その為に、超電導のロスレスの送電線を開発しているので、送電ロスがごく僅かであれば、ここまでする必要は無いと思います。

今月の読み物は、先月に引き続き吉村モノです。 新装版 赤い人 (講談社文庫) 吉村 昭 著
読み応えがあると言うか、心が重くなる。 100年前まで、こう言う囚人による強制労働が行われていたんですね。 冬の北海道で、素足で戸外作業をすると言うのも壮絶。 シベリア強制収容所でももう少しマシとさえ思われます。 だから当然凍傷にかかって不具になり、いずれは死んでいく。 監獄を矯正のためでは無くて、懲戒のためだと言う考えがあったのです。 従って、どうせ死ぬならと脱獄が多く発生します。 この小説の後で「破獄」が書かれたのも、偶然ではなさそう。 緒形拳主演で映画にもなりました。

赤い人は直接では無いですが、これと同じ設定で「北の螢」と言う映画がありました。 ご覧になった方も多いと思います。 主題歌を森進一が歌っていました。 仲代達矢主演。 てっきり吉永小百合が出ていたと思ったのですが、岩下志麻でありました。 仲代達矢の月潟剛史典獄(赤い人では月形)が歌うぶらぶら節が、吉永小百合の長崎ぶらぶら節と繋がっているので、そう思ったんでしょう。

内容説明
明治14年、赤い囚衣の男達が石狩川上流に押送された。鎖に繋がれ苛酷な労働を課せられた囚徒と看守達の敵意に満ちた命がけの物語。
内容(「BOOK」データベースより)
明治十四年、赤い獄衣の男たちが石狩川上流へ押送された。無報酬の労働力を利用し北海道の原野を開墾するという国策に沿って、極寒の地で足袋も支給されず重労働を課せられる囚人たち。「苦役ニタヘズ斃死」すれば国の支出が軽減されるという提言のもと、囚人と看守の敵意にみちた極限のドラマが展開する。






今月のひとこと2012年8月号


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2012年8月2日
株価も8500円を切ったかと思うと取り戻して、様子見の相場になって来ています。 ギリシャの次はスペインが火を噴いて、スペインはギリシャに比べて大きいので、どうなるのか、予断を許しません。 本格的に暑くなってきましたし、夏休みだし、少なくともお盆明けまでは、動きがないでしょう。

ECBがマイナス金利を本気で検討し始めたようです。 ゼロ金利は当たり前で、金利を払ってまで預けようと言う事になってきているんですね。 長らく世界経済の周回遅れと言われてきた日本は、ハッと気がつくと、周回遅れどころか、1周先を走っていたんです。 これからも金利は下がることはあれ、上がることはないのではないでしょうか。 アメリカの経済もそろそろ怪しくなって来ました。 大丈夫大丈夫、と言って来ましたが、そろそろ息切れ。 大統領選挙の年は政策的に景気が良くなる、と言われてきましたが、もう大統領選挙どころではなくなってきたのではないでしょうか。

原子力規制委員会もやっと委員の人選がきまりそうで、チグハグな民主党ですが、ここはキチンとやって欲しいと思います。 本来は、これが機能してからの原発再稼働なんでしょうが、順序が逆になりました。 これだけ暑いのに、関電の需給率は80%ぐらいで、関電も努力はしているんでしょうが、少しサバを読み過ぎと思います。 誰かが言ってましたが、一度停電にすれば良い。 東京でも起きたんだから、大阪でもやったら、少しは状況がはっきりすると思います。 いずれにしても、あの再稼働は一時的で有るべきでした。 あの時の総理大臣の判断はおかしいと思います。

日本の監査体制は、それにしても、何時まで経っても良くなりませんね。 と言うか監査が出来ない国民性なんでしょうか。 未だに300万人が死んだ、あの太平洋戦争の真相と責任の追求ができていない国ですので、先ほどの公聴会で、電力会社の社員が、誰も死んでいない、と発言したのは、ある意味で正しい視点です。

最近の大津のいじめ自殺事件にしても、オリンパスにしても、原発にしても、うまく監査すると言う事ができていません。 うるさい、邪魔というかんがえなんでしょうか。 いじめ自殺に関しては、現場を監査する教育委員会がまったく機能していない。 本来は、ここが現場の不作為や見逃しをチェックするはずです。 オリンパスでも(一般の会社でも同じですが)、現場の執行部を監査管理するのが取締役です。

先日、大手子会社の現職監査役に、取締役と言うが、何を取り締まるんですか、と聞いたら、分からんと言う答え。 本来は執行部とその長である社長を取り締まるんですが、単なる組織の上位層になってしまっている。 国で言うと、総理大臣が社長で、議員が取締役なんです。

これが機能しないから、監査役と言う日本独特の役職があって、これも機能しないので、監査委員会を作るとか言う話になっていて、キリがない感じです。 それより取締役を本来の取締役の機能を果たす方がハッキリすると思います。 そのために執行役員制度を新設したはずが、単に取締役の予備軍になってしまっています。 しかも、社外取締役の義務化も見送られたようで、我が国にはなじまないと言う言い訳で、結局なにも変わらないままです。

原子力行政も同じ。 虜とか、原子力ムラとか言いますが、基本的には監査がキチンと出来ない国民性なんでしょう。 この国民に原子力は扱えない、と言うのも、説得性のある議論だと思います。 国会や原子力はそれはそれでも良いとして、少なくとも民間のまともな会社組織はキチンと監査が機能するようにして欲しいと思います。

今月の読み物は、暑いので水に関連したお話です。 深海の使者 (文春文庫) 吉村 昭 著 ¥680。
太平洋戦争中に、ドイツとの往復に潜水艦が使われたと言うのには、どこかで少し聞いた様な気がしましたが、吉村昭によって小説になりました。 何ヶ月もかけて、狭い潜水艦の中で過ごしながらドイツとの往復をしたのは、本当にすごいです。 閉所恐怖症の筆者としては、想像するだけで息苦しくなります。 技術将校が自決する場面では、同じ技術系の人間として、いろいろ考えられさせられました。

潜水しながら世界の反対側まで行けるような、最新式の潜水艦も敗戦ののち、処理されてしまいました。 あれだけ爆撃を受けながら、よくぞ作ったものだと思います。
お盆と敗戦日を迎えて、一読あれ。

出版社/著者からの内容紹介
第二次大戦時、杜絶状態にあった日本とドイツをつなぐ新連絡路をひらくため、数次にわたって大西洋に進攻した日本の潜水艦の、いきずまる苦闘を描く力作長篇小説
内容(「BOOK」データベースより)
太平洋戦争が勃発して間もない昭和17年4月22日未明、一隻の大型潜水艦がひそかにマレー半島のペナンを出港した。3万キロも彼方のドイツをめざして…。大戦中、杜絶した日独両国を結ぶ連絡路を求めて、連合国の封鎖下にあった大西洋に、数次にわたって潜入した日本潜水艦の決死の苦闘を描いた力作長篇。
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今月のひとこと2012年7月号


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2012年7月2日
株価も少し安定してきて、先週末から日経平均の9000円をキープしています。 これを書いている時点で、9061円となり少しは平穏になって来たようです。 消費税増税も衆議院を通過して、何とか参議院も通過するようですが、実施まであと2年もあるので、何が起きるか分かりませんね。 あれだけガチガチに固めた郵政民営化も、その後の法律改正でだいぶ変質してきています。 法律を作ることの難しさを感じます。

原発も大飯がやっと再稼働を果たして、この夏は何とか乗り切れそうです。 また太陽光発電の買い取りも7月から始まって、エネルギー問題も少しは前に進みそうですが、根本的なエネルギー政策が未定なので、まだまだ紆余曲折がありそうです。

エネルギー問題に関する日本の採るべき政策は、安全な原発の開発とそれに順次更新していくことで全体の20-30%を賄うこと。 また世界に対して、この安全な原発を提供していくことで、これはビジネスにもなる。 増殖炉のもんじゅは実現の可能性が無いので廃炉にする。 ここで開発された技術および研究者は、新しい安全な原発の開発ないしは核廃棄物の新しい処理方法を開発することに向ける。

そもそも増殖炉のもんじゅは、発電と増殖を同時に行うために無理がたくさんある。 発電はプルサーマルでわずかながら消費できるが、増殖は専用の処理装置を作って、増殖と無害化に的を絞るべきでしょう。 最後に残った高レベル廃棄物は、しょうがないので、厳格な管理の元に子々孫々まで引き継いでいく。 地球規模で廃棄する場所が決まれば、そこに捨てる。

それと、省エネ技術。 使用するエネルギーは確実に熱になって地球を温める。 炭酸ガスが地球温暖化の原因かどうかは不明ですが、使うエネルギーは確実に増えて行く。 省エネ技術は現在でも世界最高。 これを全世界に展開していく。 これも大きなビジネスになるはず。

原発の議論を眺めていると、非武装中立の議論と似ている気がします。 日本だけが原発なしで済ませ、地球の他の国がどうなろうと知らない。 日本だけが脱原発したら、それで良い。 他の国もそれを見習うはず。 と言う感じの議論が多いように見受けられます。 地球は狭くなりました。 日本だけの問題では無くなっていると思います、全地球視点で、考えないといけないと思いました。

以前に本欄でトリウム原発の紹介をしましたが、だんだんとその認識が広がっているようです。 安全な小型原発として、日本が主導して開発するのは良いと思います。 もんじゅにあれだけのお金を掛けるのであれば、トリウム原発を容易に開発できると思います。 その特徴を列記してみると。

(1) 液体燃料を使うので、燃料棒を取り出す必要がない。 またこの液体燃料に、もんじゅの技術が応用できる可能性が高い。
(2) 従って、小型化が可能と言う点と併せて、安全性が高い。
(2) トリウム→ウラン233に変換して核エネルギーを取り出すが、トリウムはウランより遥かに埋蔵量が豊富。
(3) これが一番重要だが、トリウム原発では放射性物質を取り出せないし、取り出しても、これで核兵器は作れない。
(4) 放射性物質の散布によるテロは、ウラン233に付随するウラン232が強力な放射線を出すので、運搬が出来ない。 出来ても遠隔からの検出が容易。
(5) これの反面であるが、炉心のメンテナンスがロボットでしか出来ない。 ロボットが故障したら終わり。 また後進国では維持が出来ない。 しかしロボットの維持も出来ない国が原発を持ってはいけないと言う議論も成り立つ。

いずれにしても、あの巨大なプラントである原発を、水漏れ一つなしで運転するのは至難の業でしょう。 もし日本が出来ても、これからどんどん出てくる後進国の原発をどうして安全に運転していくのか。 単に日本だけの問題ではなく、ひとたび大事故が起きれば、全世界的な問題になると思います。 世界のエネルギー問題は大きすぎるとしても、電力エネルギー問題、原発問題には、世界に向かって情報発信し、リーダーシプを発揮していくべき、行かなければならないと思います。

今月の読み物は、「好太王碑の謎―日本古代史を書きかえる」 講談社文庫 李 進煕 著 古本 \133 より。 先日、村落の実態を見るために歩いていたら、大学のキャンパスに出て、そこにこの好太王碑の実物大のレプリカが置いてありました。 なんでも、これは平壌で作って日本まで運んできたとのこと。 コンクリート製です。 碑文が旧日本軍に利用されて、朝鮮併合の理由の一つにされた曰くつきの碑です。 本書は、物凄く古い出版ですが、韓国人によって書かれており多少日本に厳しい点もありますが、総じて客観的に資料を集めて解説しています。

しかし驚くのは、金石文として一番信頼性の高いものであるにも関わらず、文字が何度も変化していることです。 文字の欠落を復元するために塗られた石灰(漆喰)が、何らかの理由で手を加えられたものと思います。 その辺も考慮にいれながらお読みください。 他の新しく出版された書籍もたくさん有ると思います。





今月のひとこと2012年6月号


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2012年6月4日
ヨーロッパ再燃で、株価もドンドン下がって、これを書いている辞典での日経平均で8250円、今日だけで180円余りの下落です。 ギリシャの再選挙で政治が決まらないと、先が見えないようです。 ギリシャはEUを離脱するにもEUベースの債務がありますから、自国通貨のドラクマに戻っても、債務の返済は、ますます苦しくなるでしょう。 行くも地獄帰るも地獄で、どうしようもない。 ここは、EU統合で一番利益を得たドイツが、ギリシャの債務を解消して、ギリシャのEU離脱がもっとも望ましい解決方法だと思います。

しかし次の問題はスペインで、これも予断を許しません。 最悪シナリオは、ギリシャが破綻して、その余波でスペインも破綻の瀬戸際になると言う事で、いくら債務残高が高いと言っても、自国内での国債消化と、対外純資産がプラスの間は、日本も世界レベルで見ると、優等生なんでしょう。 その証拠にまた円高に振れ始めました。 この間の円高是正局面では、これで一気に円安に振れるのかと身構えた方も大井と思いますが、EU問題再燃で、また元に戻ったと言うことです。 BRICS も成長が落ちてきて、以前のようなデカップリング論(短期的には当たった)みたいな、楽観論も最近は一切聞こえてこず、まったくの五里霧中になってしまいました。

PCの世界も、ついこの間まで5万円PCと言っていたのに、最近はさらに下がって、3万円PCです。 デスクトップは1-2台買いましたが、ノートブックを10年ぶりで購入しました。 送料無料で、31800円と言うのが効きました。 他になにか必要なのかと調べて見ましたが、何もなし。 それで、実際に購入してみると、確かにこの金額で自宅に届きました。 ここでその3万円PCの レノボ [IdeaPad Z575] のレビューを行ってみたいと思います。 デザインにIBMの名残があり、好きではなかったですが、懐かしく思いました。

まず、大きさと重さ。 結構大きく思いです。 ガンメタルグレー、(W×D×H)mm 376x250x32.3-34.5mm バッテリー・パック、を含む本体質量 約2.6kg この機種は本来ゲーム用らしいので、大きさと重さはあまり重視していないようです。 横幅が大きいので、テンキーを含むフルキーボード仕様になっています。 テンキー付には慣れていないので、すぐに端のキーを押してしまいます。 画面に対して少し左寄りで向かわないといけないです。

ポインティングデバイスはタッチパッド。 何かおかしいと思ってよく使ってみると、スマホでおなじみの2点ポインティングで、画面のサイズの変更もスマホのように2本の指で出来ます。 アイコンがこの操作で大きくなったり小さくなったりは少し気持ち悪いのですが、再起動でデフォルトに戻るようです。 IBMゆかりのThinkPadではないためか、スティックはありませんでした。

CPUはAMDの1.5GクワッドA8-3500M。 ターボブースト時2.4GHzになるようです。 ビデオ・チップも AMD Radeon HD 6620G で、W7のスコアでこれが最低で、4.5でした。 他はそれ以上。 ビデオRAMはメイン・メモリーと共有の最大2GB。 この辺がコストダウンと性能が少し低い理由だと思います。

問題のディスプレイ は、 LED バックライト付 15.6 型 HD 液晶 で 1,366×768ドット。 縦が800を切るのは少ししんどい。 画像を見るだけなら問題ないですが、ビジネスで使うとなると、この辺が、コスト相応と言う事になります。 いろも少しダイナミックで、コストダウンはこの辺が一番効きますから、すこし我慢をしないといけないところです。

ディスクは、 500GB(5400rpm)。 アプリを入れるためか、Dドライブもパーティションを機ってありました。 光学ドライブは、CD/DVD/CD-R/Blu-ray DVDスーパーマルチ・ドライブ。 Blu-rayが使えると今はじめて分かりましたので、やってみたところ、CPRM対応のディスクはDLも読めましたが、それ以外は駄目でした。 DVDはみな読めるようです。DVD/CDは書き込みもOKみたいです。 本体をよく見たら、メディア・カード・リーダー (SDメモリーカード、マルチメディア・カード、メモリースティック、メモリースティックPro、xDメモリーカード)も付いていました。

外部インタフェースは、ワイヤレス ※8 802.11 b/g/nが付いていました。 本体前面に、ワイヤレスLAN ON/OFFスイッチが付いているので、間違ってワイヤレスで情報漏えいと言う事にはなりにくいようです。 もちろん 10BASE-T/100BASE-TX の有線LANも付いています。前面にはステレオスピーカーが付いており、マイクとカメラも内臓です。 もちろん外部のヘッドフォンとマイクのジャックは付いていました。

コスト的には問題ないのか、Bluetooth Bluetooth v2.1 + EDR準拠 が付いてました。 全部テストしていませんが、まあまあ使える範囲だと思います。 他には、アナログビデオコネクタ(VGA)が付いているのと、HDMIポート、USB2.0×3、eSATA/USBコンボ×1があり、PCカードのスロットはありませんが、接続には問題がないようです。

これらを見ると表示画面に多少の不満はあるものの、デジカメやビデオの編集や保存にはまったく問題のない仕様となっており、これが3万円そこそこであるのは、驚きのなにものでもありません。

今月の読み物は、武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書) 磯田 道史 著 ¥714。 今月は、3万円PCのレビューで紙面を取ってしまいましたので、他の話題は来月に回します。

映画になっているので、ご覧になった方も居られると思いますが、改めて原作を読んでみると、なかなか興味深いです。 このような古文書が古本屋で売られていたり、その中身が詳細な家計簿だったり、その家計簿から暮らしぶりを再現したことで、江戸時代後期の武士の暮らしが、一層身近になりました。 いわば現在の高級サラリーマンの暮らしぶりで、収入は多いものの、支出も多くて、借金に借金に重ねる、現在のサラ金地獄に通じる実態が明らかになります。 さらには、明治維新と言う大変動なかで、どうやって生き残っていったのか、興味は尽きません。

【Amazonコメント】
東京・九段の靖国神社に立つ「大村益次郎」像の建立に力があったのは、加賀前田家の「猪山成之(しげゆき)」という一介のソロバン侍だった。幕末の天才軍略家と一藩の会計係の間に、どのような接点があったのか。「百姓」から軍略の才一つで新政府の兵部大輔に上りつめた大村と、ソロバン一つで下級武士から150石取りの上士にまで出世した成之の出会いは、いかにも明治維新を象徴する出来事だが、著者は偶然発見した「金沢藩猪山家文書」から、その背景をみごとに読み解いている。

猪山家は代々、金沢藩の経理業務にたずさわる「御算用家」だった。能力がなくても先祖の威光で身分と報禄を保証される直参の上士と違い、「およそ武士からぬ技術」のソロバンで奉公する猪山家は陪臣身分で報禄も低かった。5代目市進が前田家の御算用者に採用されて直参となるが、それでも報禄は「切米40俵」に過ぎなかった。しかし、120万石の大藩ともなると、武士のドンブリ勘定で経営できるものではない。猪山家が歴代かけて磨きあげた「筆算」技術は藩経営の中核に地歩を占めていく。

本書のタイトル「武士の家計簿」とは、6代綏之(やすゆき)から9代成之(しげゆき)までの4代にわたる出納帳のことである。日常の収支から冠婚葬祭の費用までを詳細に記録したものだが、ただの家計の書ではない。猪山家がそれと知らずに残したこの記録は、農工商の上に立つ武士の貧困と、能力が身分を凌駕していった幕末の実相を鮮明に見せてくれる。220ページ足らずとはいえ、壮大な歴史書である。(伊藤延司)

【著者からのコメント 2003/04/02】
東京・神田の古書店で、加賀藩士がつけた「家計簿」が発見された。饅頭ひとつ買っても記録した詳細なものである。天保13年(1842)から明治12年(1879)年まで37年分が残されており、金沢城下の武士の暮らしぶりが手にとるようにわかる。

家計簿をつけたのは加賀藩御算用者(おさんようもの)・猪山直之。藩の経理係であり、将軍家から前田家輿入れした姫様のそろばん役を務めていた。仕事が経理であったため、自分の家でも緻密に家計簿をつけていたらしい。彼は、年収の2倍をこえる借金を抱え、年18%の高利に苦しんでいた。妻の実家に援助してもらい、お小遣いも現在の貨幣価値で5840円におさえられていた。しかし、天保13年に一念発起して家中の家財道具を売り払い、債権者と交渉して借金の整理に成功。「二度と借金地獄に落ちるまい」と、それ以後、家計簿をつけはじめた。

その後、猪山家は家運が急上昇。江戸時代の武士社会では、猪山家のようなソロバン役人は低く見られていたが、維新の動乱期になると、会計技術者は兵站係として重宝された。直之の子、猪山成之は明治政府の軍事指揮官・大村益次郎にヘッド・ハンティングされて兵部省入りし、のちに海軍主計となって東京に単身赴任する。その年収は現代の3600万円にもなった。一方、金沢に残された成之の従兄弟たちは政府に出仕できず、年収は150万円。明治士族の厳しい現実である。

本書では、なるべく、猪山家の人々の「声」を掲載することにした。幕末明治から大正にかけて、激動期を生きた家族の肖像写真をそのまま見て頂きたいと思ったからである。
あなたは猪山家の物語に何を想われるであろうか。